投資の極意「S字カーブ」

森本 紀行

大手町や丸の内という東京の中心部は外延を拡大している。いずれ遠からず、北側の隣接地区の神保町も、広大なオフィス街の一部に吸収されていくであろう。事実、神保町にも巨大なオフィスビルができた。おそらくは、このビルの家賃となると、神保町価格というよりは、大手町価格に近いのではないか。


神保町の家賃はバリュー(割安)である。しかし、バリュー(割安)は放置されることなく、いずれ水準訂正されるべきものである。水準訂正される過程では、価格の騰貴が生じる。ここに投資の利益源泉があるのだ。

質が高くて価格が安いものを買って、それを使っている限り、バリュー(価値)がある。しかし、そのバリュー(割安)が解消して価格が上がれば、更にバリュー(価値)が増す。バリュー(割安)が解消したものを売却して、また別のバリュー(割安)なものに乗り換える、このような投資行動をバリュー運用というのだ。

では、割安さは、どこに生じ、どのように解消するのか。この神保町の例では、家賃について、頂点の大手町と神保町の間に急な崖が存在することが要諦である。神保町は大手町の外延の崖下に張り付いています。外延が拡大すると、神保町は崖を一気に駆け上がって、頂上に近づく。ここが利益源泉なのだ。

要は、家賃が大手町から来た方面へ進むと低下する、その低下カーブは直線的ではなくて、S字の捻りがあり、角度の急な場所がある、その急な場所が狙い目なのである。投資の極意は、S字カーブである。

さて、どこにS字カーブがあるか。神保町の例は、横軸に大手町を原点として北への距離をとり、縦軸に賃料をとったときの家賃カーブであった。S字で急速に家賃が下がる場所があり、その急カーブの底に神保町があったのだ。次に、他の一般的な例として、二つを挙げよう。

まず、横軸に年限をとり、縦軸に年限に応じた金利水準をとろう。どなたもご存知のイールドカーブである。イールドカーブの形状は、常時変動していて、基本的に右上がりのはずが逆に右下がったり、途中にゆがみを生じたり、色々である。当然に、ある場所にS字で急角度を作るときがある。

もう一つは、横軸に信用リスク(原点を最上位格付けにして右へ格付けを下げていく)をとり、縦軸に信用リスクに応じた上乗せ金利をとる。よく使われるクレジットカーブである。これも、決して直線にはならず、ある場所でS字の急カーブを作ることがある。

二つの例とも、S字にはバリューがある。債券は、時間の経過とともに年限が短くなる、つまりイールドカーブにそって左へ移動する。S字の崖の上から下まで移動すれば、金利は急に下がる、つまり債券価格は上昇する。同様に、信用格付けが良くなれば、クレジットカーブにそって左に移動するが、S字の崖を下るとき、金利は急に下がる、つまり債券価格は上昇する。これらが、債券運用のS字の極意である。

不動産や債券以外でも、一般に、S字は投資の極意である。バユー投資とは、S字の発掘である。

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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