今こそ、周波数再編の前例を

真野 浩

 2.5GHzの周波数割当について、ソフトバンクがクレームしたことが、またしても話題になっている。
自らの利益になる時は現行のスキームに従い、それが適わない時は、声を大にして制度や官僚批判をしているのではという指摘もある。しかし、これは個々の企業文化や経営者の個性なので、事実確認無しに伝聞だけで論評することは、非建設的だと思う。
 ところで、私は過去に地域WiMAXの導入を提唱し、そのバンドが残念ながら活発に利活用されていない現状となっていることから、そのような非効率を生んだ責任を痛切に感じる1人として、少し建設的なアイデアを提唱してみたい。


 地域Wi-MAXは、2.5GHzにBWA(Broad Band Wireless Access)を導入する時に、私や当時のアッカワイヤレス等で制度提案をし、実際に技術要件の制度設計にも関わった。この背景には、当時まだ多くあったブロードバンドのない中山間地域のために、FWA(Fixed Wireless Access) として、Wi-MAXが有効な手段であると考えたからだ。ただし、ブロードバンド整備がかなり進んでいたので,爆発的な展開は厳しく、過渡的、限定的なものとして見ていた。

 私は、1990年代後半から2000年代前半にかけて、無線IPルーターを開発して、ルーラルエリアの情報化に無線よるインフラ構築を提唱し、国内でも300市町村以上の地域イントラを構築した。また、ベトナムやカンボジア等の途上国にも提案し、ITU-D FG-7 では、New technlogy for Rural Area として、広く紹介してきた。

 当時(2008年頃)は、「ブロードバンド・ゼロ地域」の解消(いわゆるデジタル・デバイドの解消)が制度目標となり、その一つの解決手法として、地域Wi-MAXが有効であると考え、私は東北電力とともに秋田のブロードンバド非対応地域で、導入実証実験を行い、それをもとに地域Wi-MAXの導入提案をした。このような目的から、私が提唱したのは、いまの移動体を中心としたIEEE802.16eではなく、IEEE802.16dというFWA(Fixed Wireless Access)型のものだった。

 ところが、当時は日本のインテル等が中心となって、IEEE802.16eの推進派が活発で、韓国でWi-Broが導入されたこともあり、日本でもKDDI が積極的に、これからの移動体通信としてWi-Maxを華々しく持ち上げた。この時も、例によって日経新聞は、お得意の光ファィバー並の移動体通信を実現という見出しで、このブームの火付け役となった。

  こんなこともあり、日本では当初の僕の目論みから離れて、Wi-MAX=IEEE802.16e=移動体が主流となり、地域Wi-MAX もいつの間にか、地域主導の移動体通信という図式になり、地域免許という言葉が地域営業権益が大好きなCATV業者の琴線を刺激した。

  そして、目聡い企業が、いま免許をとらないと、貴方の地域で誰かに免許を穫られてしまうみたいな煽りをし、さらには某中国企業の機器を輸入契約したベンダーがかなり高価な仕組みを売込んだりして、なんと46社のCATV 業者が2008年以後に免許得た。

  この免許は、事業者用免許だったので、当然ながら財務計画を含めた事業計画の提出が求められ、総務省は厳密にこれを精査した上で、その結果として免許が付与されたのである。もっとも、その後の追跡調査は、特にされない。

  はたして、あれから5年が経ったわけだが、このうち予備免許から本免許に進み、事業の開始をし、当初の審査された事業計画に沿った事業の展開に成功している会社は、残念ながらない。もちろん、なかには事業開始をし、それなりに加入者を得ている事業者もあるが、それとて収益面での事業計画やサービ上リアの展開計画との乖離は、あまりに大きいようだ。
  また、移動通信としてのWi-MAXそのものも、今やかろうじて事業継続をしているのは、世界でも韓国と日本くらいで、標準化に至っては先々週のIEEE802.16のPlenaryでは、参加者が11名しかいなかった状況で、今後の発展は期待できない。
 この辺りの理由は、技術的にも明確なのだが、死んだ子の歳を数えても仕方が無いので、ここではこれからの話をしたい。

 さて、一昨年に私は日本ケーブルテレビ連盟のフューチャープラクティス部会の委員を委託され、数回にわたり同連盟の会議に参加したが、地域のケーブルテレビ各社は、ネットやIP電話とのトリプルプレイを展開しており、固定通信のフレッツ等と熾烈な競争を展開している。このため、昨今では当然のように、地域でのWi-Fi展開はもちろんの事、FMC(移動、固定融合)というのも視野にいれている。

 ところが、Wi-Maxについては、地域Wi-MAXと全国展開するUQ-WiMaxでは、周波数だけでなく、周波数マスクなどの細部が微妙に異なっており、単純な相互乗り入れが出来ない。これまた、目聡い会社が地域CATV会社にUQ-WiMAXと相互接続できますよといって、高価な制御系システム等を売込んでいる。もともとカバーエリアがシームレスにオーバラッブ展開していないんだから、シングルサインオンのローミングで十分なのだが、ハンドオーバーとローミングの区別もつかない人が技術指導していたりして、結局は話が進んでいない。 
 それならばと、LTE等を展開する携帯会社とMVNOによりFMCを実現すれば良いのだが、これも日本では相変わらずメジャーによるMVNO拒否症があり、なかなか難しい。

 というわけで、如何にこの状況を打開する提案をしてみたい。

  • 地域Wi-MAX各社は、全体で協調して地域Wi-MAXの免許を返上する。
  • 返上された周波数を、全国版として一括してオークションにより再割当をする。
  • このオークション価格は、免許返上をした既存業者に対して、投資資産の償却残や撤退に伴う費用を含め、これを歳出する。
  • 新たに取得した全国対応の通信事業者は、免許返上をした既存業者が希望する場合、MVNO利用を最恵国待遇で提供する。これにより、既存の利用者は、特定地域でしか使えない地域Wi-MAXから全国版の移動体通信に移行できる。
  • 新たに取得した全国対応の通信事業者には、免許返上をした既存業者が希望する場合、置局場所やバックホール等の再利用可能な有形、無形資産を優先的に利用する検討を課す。

 この提案は、周波数の再編、2次利用の先鞭となり、過去に繰り返されてきた電波資源の割り当て後に生じるデッドストック化の解消事例となる。
 そして、利用者は、使い親しんだ地域のCATV事業者のアカウントで、全国展開する移動体通信サービスを受けられる。
 CATV各社は、それなりの規模の顧客を抱えており、連盟という業界団体もきちんと組織されているのだから、地域の中の視点で、意固地になるのではなく、より大局的な提案を働きかけても良いのではないだろうか?
 また、ソフトバンクは、いままでも地域貢献、日本のためという大義を掲げて、旧習に挑んできたのだから、周波数オークションと再利用の仕組みをつくるこういう提案を働きかけてはどうだろうか?