いずれやってくる現金のない世界 --- 岡本 裕明

アゴラ

私がカナダに来た20数年前に感じたのはキャッシュを持ち歩かないカナダ人ということでしょうか? 財布にはせいぜい20ドルぐらい入っている、そんな感じです。その後、Debitカード(銀行のキャッシュカードから直接買い物する方法)が爆発的に普及した10年ぐらい前からはますます現金の利用が少なくなりました。特に銀行は顧客にさまざまなプランを提供していますが、デビットカードの使用料があまりかからないプランがかなりうけているようで人によっては1ドル、2ドルでもデビットカードの支払いをするようになりました。


私の経営するカフェの場合、いまや、現金とクレジット、デビットカードの割合は5:2:3ぐらいになってきています。ところが、面白いことに有料駐車場部門の支払いを見ると現金、クレジット、デビットは2:6:2ぐらいでしょうか? 思うところ、駐車場の方が料金が高いので(日中で23ドル、一晩36ドルです。これは北米の都市部の高級ホテル駐車場の標準レートです)クレジットなのだろうと思います。また、完全な個人の消費には現金やデビットを使いますが、会社の経費で落ちるものはクレジットと使い分けている人も多いようです。

また、日本のクレジットカードもポイントがたまりやすいのですが、こちらもプランによっては急速に溜まるものもあり、裏技で北米ー日本をJALで飛ぶ場合にブラックアウト日なしでエコノミー実質33000ポイント強、ビジネス66000ポイントでいく方法もあります(私はそれを使わせていただいております)。そうなれば否が応でも何もメリットのない現金は余計使わなくなるのであります。

カナダでは遂に1セントコインはなくなりましたので財布にあのジャラジャラした感じがなくなりました。1セントがなくなった理由は鋳造原価が高いことであります。ちなみにカナダの1ドルコイン、2ドルコインも紙幣に比べて耐用年数が長いことからコインに切り替えた経緯があります。私はアメリカにも時々行く関係で米ドルももっているのですが、あの汚くてよれよれの1ドル紙幣が5枚ぐらい財布に入っただけで厚みを増す感じがどうしても許せないのは私だけでしょうか?

さて、そんな現金や紙幣もスマホ時代にはかなわないのかもしれません。日本では現金主義といわれながらも小銭に関してはおさいふ携帯とSUICAなどのカードによる決済が進みます。それでも現金がありがたがられるのは家電量販店で現金とカードでは割引率に差が出ます。また、小額のクレジットカード決済を受けなかったり嫌がるところもあります。理由は決済コストが2%前後かかることでしょうか?

ところが、北米ではスマホ決済機能が進み、キャッシュレジスターはタブレットに変わりつつある時代です。カードは日本は暗証番号を入れないことも多いのですが、カナダでは一部のカードを除きいまだに4桁の暗証番号を入力する手間があります。となれば、スマホによる決済、タブレットによる店舗側の入金処理は理にかなっているし、効率化にはもっとも効果的であります。

私は現金は100ドルずつ下ろしますが、そのライフは長ければ10日は持ちます。つまり、それぐらい現金を使うことがなくなっているのです。現金はもともと持ち運びに不便でありますし、空港あたりでは国際線出発ゲートでオフィサーに引き止められて「あなた、現金はいくら持ってますか?」と聞かれ、10000ドルを超えると面倒なことになります。なぜ、10000ドルかといえばそれ以上の現金を持つことは怪しい商売をしているか怪しい類のお金である、と見られるためです。

今から20数年前、ブラジルから規制で資金を持ち出せなくて駐在員や出張者がせっせとニューヨークあたりに現金を運んでいました。ブラジルに拠点を持っていた日本企業の社員なら誰でも知っていると思います。私はやりませんでしたが、皆、あれはかなりびくびくすると異口同音だったのを覚えています。

スマホやタブレットがもう一段普及する頃には世の中から現金がほとんどなくなっているかもしれません。考えてみれば私は知りませんが、昔は給与は現金支給でした。それがなくなった頃、給与がかみさんに取られる、と男性諸氏の嘆き節が聞こえてきたのだけは覚えています。

現金がなくなるとどんな声が聞こえてくるのでしょうか?

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2013年8月4日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。