「情報機関」の透明性促進とは何か --- 長谷川 良

アゴラ

米中央情報局(CIA)元技術助手のエドワード・スノーデン氏(30)がロシアに1年間の期限付き亡命を許可されて以来、米露両国関係が急速に険悪化してきた。オバマ大統領は、来月上旬にモスクワで計画されていたプーチン大統領との首脳会談をキャンセルするなど、米国側は具体的な対ロシア制裁に乗り出してきた。

オバマ大統領は先日、夏期休暇に入る直前の記者会見で初めてスノーデン氏の問題に言及し、「彼は愛国者ではない」と一部メディアの英雄扱いに釘を刺す一方、「国家の安全とテロ対策に取り組む米国家安全保障局(NSA)の情報活動は愛国的だ」と評価した。ただし、「国家の安全確保と個人情報の保護とのバランスを取る事は大切だ」と優等生のような返答をしている。


具体的には、NSAの情報活動を監視する独立専門家委員会を設置し、情報活動の透明性を深めていく改革を実施するという。興味深い点は、「NSA関係者は国民の信頼を得るためにその活動状況を随時国民の前に公開していくべきだ」と改善策を指摘したことだ。

情報機関関係者がその活動を自国民に公開することなどは考えられない。情報機関がその活動状況を随時そのWebサイトで公表していたら、情報機関はもはや情報機関とはいえなくなるからだ。

オーストリアの高級紙「ザルツブルガー・ナハリヒテン」は解説記事の中で「秘密は秘密だ。少しだけ秘密といったものは存在しない」と指摘し、オバマ大統領の情報機関活動の公開性促進案を「その場しのぎの考え」と一蹴している。「秘密は公開しないから秘密だ。その一部でも明らかにしたら、秘密はもはや秘密となりえない」というわけだ。

NSAが国民の批判を考慮して、その活動の一部でも公開すれば、それに関与している関係者が危険にさらされる事態だって考えられる。ちなみに、NSAの活動の透明性促進を最も歓迎するのは敵対勢力と国際テロ・グループだろう。

NSAの情報活動を評価する一方で、その情報活動の透明性を進めれば、情報機関の存在は危険に陥る。オバマ大統領は多分、自分の発言の矛盾を知っているはずだ。NSAの活動の透明性を求める一部国民の声を意識して語ったのだろう。個人の携帯電話の盗聴などの活動に対しては「議会で再検討していく」と強調した。

大統領を含む政治家の妥協発言はそれを実際に履行する関係者にとっては厄介だ。そのような妥協は履行できないケースが多いからだ。あれか、これかの選択を強いられているからだ。情報活動を継続するか、それとも廃止するかの二者択一だ。決断力の乏しい政治家は実効性の疑わしい妥協案を考え出すわけだ。残念ながら、オバマ大統領の発言はそれに当たる。大統領はNSAの情報活動の重要性を国民に啓蒙し、理解を得る努力に全力を投入すべきだ。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2013年8月15日の記事を転載させていただきました。
オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。