どんなものでも投資対象になるわけではない。個人投資家の世界では投資となるものでも、機関投資家の世界では、適格な投資対象になるとは限らないのである。
例えば、投資として現代絵画を買う個人の金持ちはたくさんいるのだが、同じことを年金基金などがやってもよいのか。実は、美術品の価格の上昇には著しいものがあって、投資実績としては、かなり良好なのだが。
私は、20年以上も前のことだが、著名な米国の投資銀行の調査レポートに、様々な投資対象の超長期的な実績が紹介されていたのを記憶している。その中には、株式・債券・不動産などに混じって、切手も入っていた。おそらくは、切手が取り上げられていたので、未だにこのレポートのことを覚えているのだと思う。もっとも、残念ながら、切手投資の実績が株式などを凌駕していたかどうかは、記憶にないのだが。
また、商売柄、これまでに、ありとあらゆる投資ファンドの事例を見てきたが、中には、フランスのワインのファンドというものもあった。ボルドーのごく限られた銘柄に若い段階で投資して、長期間ねかせてから出荷するという単純なものだが、運用者によれば、株式市場を上回る実績を挙げているとのことであった。
では、絵画や切手やワインは、機関投資家にとって適格な投資対象なのかというと、私は、適格な投資対象ではないと考えている。ただし、金融技術的には、それらの資産を使って、適格な投資対象を創出できるとも考えている。
例として、土地が挙げられる。更地は、個人にとっては、投資対象であり得ても、機関投資家にとっては、適格な投資対象ではあり得ない。値上がり期待以外に投資価値のないものは、投機ではあっても投資ではないからである。しかし、土地の上にビルを建てて、テナント料を生む仕組みを作る、つまり、土地を収益物件化すれば、立派な投資対象である。
鍵はキャッシュフローだ。収益物件としての不動産は、不動産が生み出す将来キャッシュフロー(テナント料)の現在価値として、投資対象になるのだ。
ワインにしろ、絵画にしろ、レストラン事業、絵画事業というものがあれば、キャッシュフローを生み出す仕組みに構成できるのだから、投資対象に仕立てることは可能であろう。しかし、切手には、そうした事業の裏付けを得がたいと思う。個人の好事家の収集対象にとどまる限り、いかに値上がり期待があっても、機関投資家の投資対象にはならないということである。
森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
HC公式ウェブサイト:fromHC
twitter:nmorimoto_HC
facebook:森本紀行