きのうの記事に少し補足。「5・6号機は修復にコストがかかりすぎるので、いずれ廃炉にするしかない」という見方もあるが、それは東電の経営陣が判断することで、少なくとも今あわてて決める必要はない。ただでさえ汚染水の処理コストが足りないとき、わざわざ2000億円もの特別損失を計上する理由は――安倍首相のスタンドプレー以外に――見当たらない。
日経によれば、10月に会計処理のルールが変わって、初年度は700億円ぐらいの特損で10年かけて処理できるようになるというが、合計2000億円は電気代に転嫁される。つまり東電の利用者が、拙速な廃炉のコストを負担するのだ。これは国も東電も、他人の金ならいくらでも使おうというモラルハザードである。
首相が福島第一を全部廃炉にして国がコントロールしたいのなら、すでに大幅な債務超過になっている東電を法的整理してGOOD東電とBAD東電に会社分割し、福島第一をBAD東電にして国が買収し、名実ともに国が責任をもつしかない。これは多くの専門家が2年前から提言してきたことだが、民主党政権は銀行の債権を保全するために破綻処理を見送った。
この背景には、経産省の松永事務次官(当時)が事実上の債務保証をした経緯もあるといわれるが、普通に会社更生法を適用すると、株主資本も銀行の債権もゼロになる(担保つきの社債は保全されるかもしれない)。しかし東電の株主が事故処理のコストを負担しないで納税者が負担することは資本主義のルールに反し、世界からも批判を浴びるだろう。
したがって安倍首相が決断すべきなのは、民主党政権の決めた曖昧な「支援機構」を廃止し、東電を清算して国が全責任をもつことだ。その際、事故後の銀行の緊急融資に対する国家賠償が必要になるかもしれない。これは経産省が債務保証をしたかどうか、原賠法の但し書きを適用しないと決めた民主党政権に責任があるのか、などを法的整理の段階で管財人や裁判所が判断すればいい。
法的整理した日本航空は、国費を投入したものの会社として再生した。他方、無責任体制のまま90年代の不良債権処理のように問題を先送りしていると、処理コストが膨張し、それは結局、莫大な国民負担になる。この判断ができるのは、首相しかない。安倍氏が指導力をアピールしたいのなら、彼が決断すべきだ。
それ以前に、まず定期検査の終わった柏崎刈羽原発を再稼働し、それによる収益を汚染水の処理コストに当てる必要がある。原子力規制委員会の安全審査は、運転と並行してやればよい。新潟県知事にはそれを拒否する権限はない。福島事故の処理には、今や世界が注目している。不透明な「空気」によるごまかしはもう許されない。