東京五輪開催は都市再生の一里塚 --- 佐嘉田 英樹

アゴラ

先日の国際オリンピック委員会総会で、2020年夏季オリンピック・パラリンピックの開催都市に東京が決まった。前回の招致活動に比べ、国民の関心は格段に高く、招致委員会をはじめ多くの国民の力で勝ち得たものと言え、歓迎したい。

招致委員会の打ち出した計画によると、招致スローガンは「”Discover Tomorrow ”―未来(あした)をつかもう―」。東京に限らず、日本全体、あるいは世界中の先進諸国の抱える課題を解決する処方箋をいくつも考え出し、実際に行動する契機となって欲しいものだ。


招致委員会が「招致の動機」として四つの項目を挙げ、その中でも「更なる東京の進化とその共有」を掲げている。少々長くなるが、その部分を引用すると、次のようになる。

国立競技場改築や防災機能向上など、現在進行している大規模な都市整備が完成する2020年こそが、オリンピック・パラリンピック招致の最大のチャンスであり、過密化が進む東京における用地確保の観点から、最後のチャンスともいえるこの機会を活かしたい。
公共施設・交通機関・スポーツ施設などインフラのバリアフリー化のみならず、海外からの来訪者にとっても言葉の壁や偏見などがない都市へと進化し、全ての人にとって心のバリアフリーをも感じられる国際都市・東京を実現したい。

環境に対する配慮や少子高齢化社会のあり方に至るまで、世界の成熟都市が等しくかかえる問題を解決に導く礎となる大会を開催したい。

総論としては、正にその通りだろう。

それに呼応するように、東京都も「アクションプログラム2020」を策定している。東京の抱える課題としては、大きく、防災、環境・エネルギー、自然との共生、少子高齢社会、産業力強化、交通ネットワークの強化などを挙げている。例えば、首都高速をはじめとする公共交通や上下水道等のインフラの老朽化、耐震性能に不安を抱える建物群、木造密集住宅地域と狭隘道路、都市景観など、解決すべき課題は山積しており、これらの課題を早急に解決すべく実行することが求められている。オリンピック開催までにそれらの課題解決に向けての原動力となることを期待したい。

ただし、懸念がないわけではない。

・五輪開催会場が、国立競技場を始め、既存建物の建て替え・改修のほかは、新規に建設される恒久施設の大半が、東京湾岸エリアに集中していること。このことは、とりもなおさず、湾岸エリアの開発整備は促進されるだろうが、その他のエリアでの老朽化・低下している都市機能を回復・向上させるだけの、時間的・財源的余裕があるのであろうか。首都直下地震に対応した防災対策が急務なエリア・建物に対する手当ができるか疑問である。

・少子高齢社会の到来はコンパクトな都市を実現させる必要があるのに対して、この回の大会計画が謳うプランでは、広大な湾岸エリアの埋立地の宅地化を促進させることであり、既存の宅地、特に郊外地域においては、利用されない荒廃した余剰宅地を誘発する可能性が高い。これらの地域の出口戦略も考える必要があろう。

・都市再開発には、大きな財源と時間、そして労力を必要とする。前回の東京五輪の際にも見られたが、これまでの公共投資はインフラ、ハードへの投資に偏重していた。昨今の経済・社会情勢を鑑みると、これまでの投資についての発想を転換させる必要があろう。民間主導、そして、ソフト・コンテンツを重視したまちづくりが求められている。アイデア次第で面白いまちづくり、集客できるまちづくりは可能だ。そのアイデアを法律や条例等で制限することを極力排除して、自由な発想で新しいまちづくりを推進できる環境整備に取り組んでもらいたい。

今回の東京五輪開催が、東京のみの活性化に留まらせてしまうのではなく、日本全国にその恩恵が波及するように工夫すべきだ。特に、東日本大震災からの復興が遅れる東北地方の被災地復興が促進し、観光客誘致に繋がる施策を進めてもらいたものだ。

今回の五輪決定によって、東京、そして日本がどのような変貌を遂げるのか、7年後が楽しみである。ただし、東京五輪開催はひとつの通過点であり、東京が抱える根本的・長期的な課題は、むしろそれ以降にその真価が問われている。そのためにも、目先の五輪開催のためだけのまちづくりではなく、長期的視点から見たまちづくりを推進すべきだ。その意味で、今回の決定は、世界都市・東京の再生・再創造の最初で最後のチャンスと言えるだろう。そして、都市再生のモデルケースとして、他都市のお手本になるような事例をたくさん蓄積することを目指すべきだ。

佐嘉田 英樹
都市・経済政策研究所 所長