オーストリアでは10月1日は「コーヒーの日」だ。音楽の都ウィーンはおいしいコーヒーが飲める街として有名だ。ウィーン市民が一杯のメランジェを飲みながら談笑するシーンは至る所にみられる。ところで、ウィーンが長い間誇ってきたそのコーヒー文化(Kaffee Kulture)が時代の流れの中で変遷を余儀なくされてきているという。オーストリア日刊紙プレッセの記事(28日付)からウィーンのコーヒー文化の危機を紹介する。
①ウィーンのコーヒー文化が危機に直面しているのはその品質の後退を意味しない。ウィーンでは今もおいしいコーヒーが注文できる。問題はウィーンのコーヒーがCaffe Latte、Cappuccino、Espressoといったイタリア銘柄のコーヒーの進出で陰が薄くなってきたことだ。簡単にいえば、ウィーンの伝統的なコーヒーが国際銘柄のコーヒーに押されてきたのだ。Melange(ミルク・コーヒー)はまだ人気があるが、アインシュペンナー(Einspaenner)やKapuzinerといったウィーンの伝統的コーヒーをカルテ(メニュー)に載せない喫茶店も出てきた。コーヒー・ファンは自宅にコーヒーメーカーをもち、さまざまなコーヒーを独自に作る時代だ。伝統的なコーヒーだけではお客を呼べなくなってきた。「マクドナルドですら完全なイタリア産コーヒーを作る機械を導入している時代だ」というわけだ。
②ウィーンのコーヒー店ではコーヒーだけではなく、軽い食事(ソーセージやグラシュ・スープなど)が注文できる。コーヒーだけでは営業が成り立たないからだ。最近では、時代のトレンドに呼応して、菜食主義者用専用やグルテンフリーの食事も注文できる喫茶店が出てきた。
③コーヒー・ハウスは待合場所であり、談笑する場所として好まれる。その点は今も昔も同じだ。昔は著名な小説家や芸術家たちがコーヒーを飲みながら談笑する風景がみられた。作曲家シューベルトは「カフェー・ミュージアム」で友人たちと談笑し、時には作曲したばかりの音楽を演奏したものだ。今はそのような風景はもはや期待できない。
ちなみに、昔の文豪にはコーヒー愛好家が少なくなかった。当方が好きなダブリン出身のオスカー・ワイルドやスウェーデン作家アウグスト・ストリンドベルクもコーヒーが大好きだった。ただし、オノレ・バルザックのようにコーヒーを飲み過ぎて死んでしまった作家もいる。
④ウィーンのコーヒー・ハウスでは昔、ビリヤードやチェスを楽しむことができたが、今ではウィーン市内でビリヤードできるコーヒー・ハウスは限られている。
⑤コーヒーハウスでは一杯のコーヒーで長い時間を過ごすことができる。その点、今も変われない。最近では、スマートフォン持参の若者たちのために無線LANなどサービスを提供する店が増えた。ただし、禁煙が義務づけられているので、昔のようにタバコの煙を吹かしながら新聞を読み耽るといったことはできなくなった。
⑥ウィーンでコーヒー・ハウスが危機に直面しだしたのは1950年代、イタリア産のEspressiが入ってきてからだという。その結果、ウィーンの伝統的コーヒー・ハウスは時代遅れの印象を与えた。音楽の都ウィーンには多くの旅行者が殺到することもあって、コーヒー・ハウスの倒産ラッシュといった現象はないが、時代のトレンドに遅れたコーヒー・ハウスは消滅していった。1900年には約600のコーヒー・ハウスがあったが、現在は約140店。そのうち、伝統的なコーヒー・ハウスは70店ぐらいという。
編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2013年9月30日の記事を転載させていただきました。
オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。