ホワイトをつくるにはブラックが必要という当たり前のお話 --- 城 繁幸

アゴラ

興味深い記事を見つけたので補足しておこう。

要約すると、IT企業や東電などにみられる多重下請け構造にメスを入れることなく“ブラック企業問題”を解決できるのか?という疑問である。

拙著「7割は課長にさえなれません」でも書いたが、日本の「企業規模間での賃金格差」は世界でも類を見ないほど大きい。「大企業ほど高賃金」という認識は、日本では学生から主婦まで共有している常識であるが、世界では必ずしも常識ではない。


kibo

なぜ日本においては企業規模で賃金に格差が生じるのか。それは雇用が実質的な身分制度として機能しているからだ。

ねつ造発覚で打ち切りとなった関西テレビ「あるある大辞典」を例に説明しよう。

あの番組では花王から支払われていたスポンサー料は一億円だが、あれこれ中抜きされた結果、末端の制作会社に支払われていたギャラは860万円に過ぎなかった。

にも関わらず、最初の社内調査では全部孫受けの制作会社に責任を押し付けようとしたため、総務省から再報告を命じられている。『やらずぼったくり』とはこのことだ。

さて、この制作会社の人間が「うちの会社は重労働サビ残当たり前のブラック企業です、助けてください」と駆け込んできた場合。なんたらユニオンに加入するだけで問題が解決するという人はまずいないだろう。

こうした構造にメスを入れるには正社員制度そのものにメスを入れ、同一労働同一賃金を地道に推進していく以外にない。

大企業の労働者と下請け企業の労働者が同じ土俵で競争し、生産性に応じた賃金を受け取るようになれば(完全に=ではないだろうが)ここまでの格差は生じないはずだ。

余談だが、戦後日本で左翼政党を支持してきたのは、実は低所得者層ではなく、生活に余裕のある大企業や官公庁労組だった。「左翼はインテリのお遊びだったから」という話はよく聞くが、筆者はもっとシンプルな理由のように思う。

左翼が大手の労組と一緒に「終身雇用を守りましょう、生活給をもっと企業に負担させましょう」という主張をすればするほど、そのためのコストを誰が負担させられるのかという事実に、多くの非・大企業の労働者は気付いていたのだ。

少なくとも、戦後の労働者は『和製左翼』の胡散臭さに気付いていたわけだ。21世紀の若者も、それに騙されることが無いように祈りたい。

※参考リンク 「ピンハネ」は日本の美しい文化である


編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2013年9月29日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった城氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。