デジタルサイネージアワード2013 --- 中村 伊知哉

アゴラ

第3回となるデジタルサイネージアワード。
2011年は1) 面白くて、2)役に立つ、3)みんなの サイネージへの進化を反映してくれました。
 http://ichiyanakamura.blogspot.jp/2011/08/2011_29.html
昨年は「参加型」がハッキリしました。インタラクティブで、ユーザが働きかけたり、コンテンツを発信したり、ライブ参加したりするタイプが中心の座を占めるようになりました。
 http://ichiyanakamura.blogspot.jp/2012/10/2012_13.html

今年は、その傾向が行き着き、「そこまで来たか!」という姿を見せてくれました。
 http://www.digital-signage.jp/award/2013/
日本のサイネージは電子看板から参加型ネットメディアへと高度に進化しました。
街角の大画面からオフィスのタブレットまで、さらにそれらがみんなつながって、参加型で、さまざまな空間を使って、技術とデザインを組み合わせて、ポップでキュートなコミュニケーションを演出しています。
世界を相当リードしていると思うんです。
今回の応募は31作品。昨年より減りました。進化しすぎて、応募のハードルが上がりすぎている気もします。

各作品を見てみましょう。
 


■GOLD賞(1作品):
○THE FUN GATE
 KDDI株式会社

休日になると9万人が通行する新宿駅前の公道スペースに巨大なゲートを設置し、横幅約5m、全長約30mに及ぶインタラクティブサイネ―ジストリートを出現。ゲートをくぐった通行人の顔を1秒足らずでポリゴン化し、auスマートパスの登場を知らせる歌を歌う動物キャラクターとしてリアルタイム合成。合成された姿はゲートのすぐ先から立ち並ぶモニターでアニメバナーとなって登場し、通行人の歩みに合わせて次々と表示。2日間に約1万人がゲートを通過し、約5000パターンのアニメーションバナーが生成された。
 —- サイネージのある町から、サイネージが作る町へ。しかも、マイノリティ・リポートのような無機質の空間ではなく、リスさんになっちゃうというポップで脱力系なクールジャパンです。

■SILVER賞(3作品): 

○FaceTouch
 チームラボ

 タッチパネルディスプレイに社員の顔写真を表示し、来訪者がアポイント相手の顔写真をタッチして呼び出す受付システム。写真をタッチすると、出身地や趣味などが書かれたプロフィールページが表示され、呼び出しボタンを押すと、PCの常駐アプリや携帯電話へのメールを通して、直接担当者に通知。名前を覚えていなくても、写真やプロフィールから相手を認識できる。プロフィールページには、ギャップのある写真を表示させたり、季節感のある写真を表示させることで、会話のネタにすることもできる。
 —- お店や公共空間だけでなく、オフィスも、しかも無味乾燥の受付をもエンタテイメントに変える。コミュニケーションを誘発する。そして、ビジネスに役立てる。視点をひっくり返して、デジタルサイネージの広がりを予感させる一品。

○お店で遊ぶ「FUN」体験
 ギャップジャパン株式会社

店舗内にデジタルサイネージを設置し、AR技術を用い、体を動かして遊べるコンテンツを子供/ファミリー向けに放映。サイネージに出てくる風船を割ったり、動いている乗り物を動かしたり、「FUN」を体験できる。コンテンツは、お店の雰囲気に合わせPOPなデザインに。本社でコンテンツを管理し各店舗に配信、リアルタイムで更新が可能。子供がデジタルサイネージで遊んでいる間に、お母さんはゆっくりショッピング。しかも、時々出てくる「アタリ」を携帯で撮影し、レジに持っていくと10%オフになるお買い得もある。Old Navy 9店舗、Gap Generation 14店舗内に導入。
 —-  遊ぶデジタルサイネージ。ARという技術と、ポップなデザインの組み合わせは、日本の得意技。子守りの役に立ち、お買い得というビジネスにもつながる。ヒントがつまった作品。

○JRAジャパンカップ「ステーションケイバ」
 日本中央競馬会/株式会社 東急エージェンシー

丸ノ内線新宿駅コンコースに「全長14m高さ2mの巨大なデジタルサイネージ」を設置し人工芝やハロン棒デザインの柱巻広告と共に競馬場を再現。映像表現は東京駅プロジェクションマッピングを手掛けたP.I.C.Sに依頼。MTV系の演出家を起用し、特に若い人達に競馬に興味を持ってもらえる様なクールかつポップな映像を制作。競走馬が横長の媒体を駆け巡る映像表現を中心に競馬の魅力を訴求。この取り組みは多数メディアやSNSで拡散。ジャパンカップはその年、入場者数11万7776人、前年比113.4%増で大成功。
 — 等身大の競走馬が新宿の地下を走る。いっしょに走ってみる。非日常を日常空間に持ち込む。サイネージの進化を間近に感じさせます。

■BRONZ賞(5作品)
 こちらは作品名と出展者の紹介のみにしておきますが、いずれも、日本型の素敵なサイネージです。

○Cooking Studio Signage
 株式会社 ABC Cooking Studio

○BACARDI SCREAM HALLOWEEN
 バカルディ ジャパン株式会社

○インタラクティブ・3Dプロジェクションマッピング・クリスマスツリー
 大日本印刷株式会社

○成田空港デジタルアート「世界はこんなにもやさしく、うつくしい」
 成田国際空港株式会社、チームラボ/三菱電機株式会社

○渋谷ヒカリエ アーバンコアデジタルサイネージ
 東京急行電鉄株式会社、イッツ・コミュニケーションズ株式会社、株式会社ライゾマティクス

 機会があれば、ぜひ実物をごらんになってください。サイネージは場所と時間がヒモついたメディア。実際に仕事しているところを見ていただくのが一番です。
 ただ、ここにはもはやデジタルサイネージの概念を超えるような進化形が並んでいるのですが、もちろんサイネージはそれだけではありません。むしろ、広告メディアとして、そして公共的な情報ツールとして、あらゆる場所に深く静かに広がっています。ビジネスとしては依然それが本丸。
 ぼくたちとしては、それら基盤としてのサイネージも、これら進化形のものも、横へ、上へと全方位に広がっていってもらいたい。今後ともよろしくお願いします。
 なお、ガチの投票結果だからいいんですけど、ゴールド賞のKDDIはコンソーシアムやめちゃったんだよねー。理事で戻ってきてくれませんかねー。  では来年。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2013年10月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。