EVが誤算の日産自動車、踊り場でもがく --- 岡本 裕明

アゴラ

日産自動車といえば瀕死の重傷からカルロスゴーンマジックで奇跡の回復を遂げたドラマになるような歴史が印象的です。ヒット作品に恵まれず売れない車が山積し、借入金が2兆円を超えた1999年、ルノーとの提携が実を結び、ゴーン氏がその指導者として同社のトップに座りました。

一方、その治療方法は過激でした。そのゴーン氏とGHQのマッカーサー元帥が重なって見えるのは私だけでしょうか? ゴーン氏とマッカーサー元帥の共通点は日本外から突然降り立ち、今までの常識をことごとく崩していき、タブーを無視したことでしょうか? これがそれまで悶々としていた空気をぐっと変えるきっかけにもなったのです。


ゴーン氏がそれ以降、現在に至るまで約14年間もトップに君臨できたのは日本が失われた20年という方向性を失った日本の時期に重なったことも大きかったでしょう。マッカーサーとゴーン氏の運命が明らかに別々になったのはマッカーサーのアメリカ大統領への夢が無残も打ち砕かれ、その後、朝鮮戦争の予測も見誤るなど、失態が重なったことであります。つまり、ノリに乗っているときは何をやっても成功するものの一歩躓くと案外、がたがたと音を立てて崩れ落ちるものだということを見せ付けました。

その点、ゴーン氏は2005年に本体、ルノーのCEOに昇格したことが彼の自信を更に深め、ゴーン帝国を築き上げる礎となりました。その後もロシアのアフトワズを傘下に入れ、まさに破竹の勢いで世界トップ5の地位を固めるところまで成長させました。更にはGTRを復活させ、まさに日産復活の花火は大きく上がったのであります。

ですが、個人的にはこのあたりから少しずつ風向きは変わってきたように思えます。

乗りたい車が少なくなってきた、というのが正直な感じでしょうか? 北米ではラインアップに「強力打線」が少ない気がします。特にマキシマの存在感がゼロですし、アルティマも以前ほどではありません。インフィニティのラインアップと相反するところもあります。たとえばスカイラインはインフィニティでもGTRは日産系での販売なのです。

ゴーン会長のもうひとつの誤算は売れないEVだろうと思います。計画値にまったく遠い販売台数の上に、最近ではドイツ勢が次々にEVを売り出し、少ないパイの奪い合いが起きる気配すらあるのです。EVは計画ではインフラの拡充と共に市場が広がる予定でした。しかし、FCV(燃料電池自動車)が2015年にも市場に参入する予定で水素スタンドのインフラとバッティングしていることもあります。特にEVの充電時間が極端に長い点は競合とのシェア争いでは圧倒的に不利であります。

今回、ゴーン会長は三菱自動車との連携を深める戦略に出ました。連携が資本提携に繋がれば世界販売台数は800万台を超えてきますからトップ3を狙える位置まで上がります。

しかし、今、私はルノー・日産グループがカリスマ経営者の豪腕経営からものづくりの魅力をもう一度取り戻す戦略に舵を切らないとトヨタ自動車には勝てないと見ています。トヨタには殿様の貫禄、そして、日産自動車は必死にもがく戦国武将という構図が見て取れますが、ゴーン戦略が十数年も同じスタイルのピクチャーに見える中、ふと、このままでよいのだろうかという疑問がわかないわけでもありません。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2013年11月18日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。