朝日は「イエロージャーナリズム」に堕ちたか--福島漁業再開の報道

GEPR

中村政雄
(科学ジャーナリスト)

(GEPR編集部)アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンク、GEPRは日本のメディアとエネルギー環境をめぐる報道についても検証していきます。エネルギーフォーラム11月号の記事を転載します。中村様、エネルギーフォーラム関係者の皆様には感謝を申し上げます。

【以下本文】

「口では福島支援と言いながらちっとも支援していない」。原子力規制委員会の田中俊一委員長は9月11日の記者会見で、福島第一原発事故の汚染水漏れで福島県や近県の水産物を敬遠する動きが国内外で強まっていることに不満を示した。


田中氏は「環境や生態系に影響は出ていないのに、大変なことが起こっているようにとらえられている」と指摘。「漁を自粛したのは危険だからではない。市場に出ているのは放射性物質が検出されない魚なのに買わない」と語った。(9月11日付河北新報)

福島民友も9月12日付朝刊に同じ趣旨の記事を載せた。

9月26日付朝日新聞朝刊は、東京電力福島第一原発の汚染水漏れで延期され、約3カ月ぶりに再開された福島県北部の試験漁業を社会面トップで取り上げた。(記事

社会面の半分以上を使った大扱いだ。漁師にとって待ちかねた船出だったから、その喜びを伝えたいのかと思ったら大間違い。すごい見出しが付いていた。

縦7段の凸版で「取っても海へ、漁師の気持ち分かるか」。さらに「9割捨てる試験漁」の大きな横見出しが付き、取った魚を海に捨てる漁師の写真が載っていた。

記事は「がれきも網にかかる」「漁師は俺で3代目だが、2人の息子には継がせない」とか「取った魚を海に捨てる漁師の気持ちが分かるか?」といった感情的な言葉が続く。

放射能で汚れているから、取った魚の9割を捨てたように思える構成になっていた。

ところが、小さな文字で書かれた写真説明には「試験操業の対象魚種ではない9割近くをこの後、海に捨てた」とあった。注のような囲み記事が付いていて、「福島県は沿岸で採取した魚の肉に含まれる放射性セシウムの量の調査を続けている。ここ数カ月はヒラメやマコガレイ、シラスなど、ほとんどが検出限界値(1KG当たり16ベクレル前後)以下だ。試験操業の対象魚種16種でも、大半で検出限界以下だった」

この小さな記事を本文にすべきだった。それでは迫力がないよ。社会面だからパンチの効いた見出しの付く内容でなければダメだ。というのが編集者の言い分だろうが、それでは情報を偏らずに伝えるというより、「売れればいい」というイエロージャーナリズムではないか。朝日新聞が売れれば、魚は売れなくていいのかと皮肉りたくもなる。

この注のような記事には「放射能、大半が検出限界以下」との2段見出しが付いていたが、「9割捨てる試験漁」「取っても海へ 漁師の気持ち分かるか」という大見出しの前には影が薄い。取った魚を海に捨てる漁師の写真もあって、福島県沖の漁はまだ汚れていて食べられないのだな、という印象を受ける。福島県の漁師さんはがっかりだろう。

読売新聞も9月26日付朝刊第2社会面でこのテーマを取り上げたが、見出しは「試験操業再開に喜び、福島沖」。

「水揚げされた魚は、漁港で放射性物質濃度のサンプル検査を行った。安全性を確認し、26日から地元のスーパーなどで販売されるほか、仙台市や東京・築地市場にも一部出荷される」と書き、「久しぶりの操業で体が疲れたが、心地よい疲れ。やっぱり沖に出て魚を取れるのはいい」「もう少し漁ができる対象魚種が増えてほしい。いつ本格操業ができるのか不安もある」「福島の魚は二重の検査で安全性を確認している」などの談話もあり、素直なつくりだった。