「国連腐敗防止条約」10周年で思う --- 長谷川 良

アゴラ

12月9日は「国際腐敗防止デー」(International Anti-Corruption Day)だった。ウィーンの国連情報サービス(UNIS)からプレスリリースが届いた。今回のテーマは、国連腐敗防止条約(UNCAC、United Nations Convention Against Corruption)調印10周年を迎え、UNCAC締結国の監視を担当する国連薬物犯罪事務所(UNODC)のユーリ・フェドートフ事務局長のメッセージだ。


UNCACは2003年10月31日、メキシコのメリダ会議でまとめられ、国連総会決議で採択された。批准国は現在、171か国。腐敗、資金洗浄など経済犯罪の防止メカニズムを明記したもので、公務員の贈収賄・横領など汚職・腐敗行為の防止、民間セクターでの腐敗対策、ビジネスの倫理、法順守の確立を目指す一方、アンチ腐敗専門家の育成などを促進してきた。

フェドートフ事務局長は「腐敗は開発途上国、開発国の区別なく、グローバルな社会問題だ」と指摘し、「ゼロ腐敗、100%開発」をモットーにUNDP(国連開発計画)と共同キャンペーンを始めたことを明らかにしている。

そういえば、当方が住むオーストリアで2010年9月、「国際アンチ腐敗アカデミー」(本部ラクセンブルグ、IACA)の創設会議が行われた。同会議には、潘基文・国連事務総長や多数の閣僚たちが参加した。

ホスト国のシュピンデルエッガー外相は「腐敗対策はこれまで各国が実施してきたが、IACAが設立されたことで、腐敗対策の国際ネットワークが確立される」と、その意義を説明し、同アカデミーで今後、警察官、検事、裁判官ばかりか、銀行マンなど民間人もセミナーに参加し、腐敗対策を学ぶことができるという。

一方、バンディオン・オルトナー法相(当時)は「腐敗は社会の毒だ」と指摘し、腐敗対策の効率化や連帯強化の必要性を主張した。ちなみに、世界銀行によると、「腐敗」による被害総額は毎年、1兆ドル以上にもなるという。

当方はこのコラム欄で「『社会の毒』」という腐敗に対し、国際機関やアカデミーがその毒素を解毒できるとは思えない。もし可能というのならば、UNODCが発足した段階(1991年)で腐敗問題は既に解決されていなければならない。結局、『なぜ人は腐敗するか』を考察しなければならない。それは単なる哲学上の問題ではない。原因の追及だ」という趣旨の内容を書いた。

政治家は何か新しい問題に取り組む時、必ずと言っていいほど、新しい機関を創設する。冷戦時代、旧ソ連・東欧共産政権では無数の委員会が作られたのと同じメカニズムだ。新機関、委員会が問題の解決に役立つのならばいいが、多くはそうではない。国連でも同じだ。多くの憲章と条約が作成されてきたが、その効果が疑わしいものが少なくない。

UNCAC10周年を迎えた今日、「なぜ人は腐敗するか」について、政治家、外交官はじっくりと考えるべきではないか。その考察(原因療法)がなくして腐敗対策を声高く叫んでも成果は期待できないからだ。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2013年12月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。