ヤクルトスワローズのバレンティン外野手が、妻への暴行容疑で逮捕された。
本人は無罪を主張しており、事実関係はまだ分からないが、もし同選手が一般企業の社員であったら、今後どのような処分が考えられるだろうか。
直観的に考えれば「刑事事件を起こしたのだから、当然解雇だろう」と思う人が多いかもしれないが、そう単純な話でもない。
企業には就業規則があり、そこに定められた懲戒規定に則って判断されることになる。
懲戒のうち最も重い処分は「懲戒解雇」(通常、退職金なども出ない)だが、懲戒解雇に該当する理由の一部として、次のような表現をしているケースが多い。
・会社内において刑法その他刑罰法規の各規定に違反する行為を行い、その犯罪事実が明らかとなったとき(当該行為が軽微な違反である場合を除く)
・私生活上の非違行為や会社に対する正当な理由のない誹謗中傷等であって、会社の名誉信用を損ない、業務に重大な悪影響を及ぼす行為をしたとき
さて、刑法犯罪においても「会社内において」と限定しているのは、プライベートなことについては会社の信用失墜などに影響しない場合は解雇理由として認められにくいことを示している。会社内の犯罪ということは、会社のお金を横領したとか、上司や同僚に対する傷害事件などが対象となる
一方、稀に以下のような規定を設けている会社もある。
・刑法犯又は悪質な交通違反によって提起され、もしくはこれに準ずる行為により、会社の信用を傷つけたとき
この場合も、提訴されただけではなく、「会社の信用を傷つけた」かどうかが判断のポイントだ。
バレンティン容疑者の場合、起訴や刑の確定など、事件の状況次第ではあるが、次の2つの点で球団として難しい決断が求められる。
1つ目は、普通の会社員と異なり、有名人であること。
2つ目は、戦力的になくてはならない選手であること。
普通の会社員であれば、今回の事件も世間に知られることはない。しかし、有名人であるが故に、大々的に報道され、多くの人が知るところとなった。もちろん、ヤクルトの名前も何度も出るため、「球団の信用を傷つけた」という理由を適用することは難しくない。
一方、選手としては昨年、王さんの年間ホームラン記録を塗り替えた歴史的なバッターだ。当然、ヤクルトとしては、来季の戦力を考えると辞めさせたくない。しかも、トレードのピークも過ぎたこの時季に、新しい戦力の確保も困難だ。
したがって、ヤクルトとしては、できる限り辞めさせなくて済む方法を考えることになるが、球団内の問題としてはクリアしやすい。バレンティンが他の選手からよっぽど嫌われているなら話は別だが、必要な選手であることは誰もが認識しているので、チームの和を乱す心配は少ない。減給処分などのペナルティで済ますことはできるだろう。
問題は、世間の反応だ。辞めさせなかったことで、ヤクルトの球団姿勢が疑われ、社会的な批判が高まれば、人気商売なので辛い。
一般企業の社員に置き換えると、「トップセールスマンが暴力沙汰で逮捕され、何かのきっかけで取引先などの知るところになった」状況だろう。
おそらく甘い会社なら「トップセールスを辞めさせては会社の業績に影響するので」減給か何日かの出勤停止くらいの懲戒処分。コンプライアンスに敏感な大企業などでは、「会社の信用を著しく傷つけたという理由で」懲戒解雇か諭旨解雇(通常、本人からの依願退職のかたちをとり、退職金は支給)などの処分が下されるのではないだろうか。
今後の事件の成り行きとともに、ヤクルト球団の判断と発表の仕方にも注目してみたい。
山口 俊一
株式会社新経営サービス
人事戦略研究所 所長
人事コンサルタント 山口俊一の “視点”