北朝鮮の国民を撮り続けるカメラマン --- 長谷川 良

アゴラ

イタリア人のカメラマン、ルカ・ファチョ氏(Luca Faccio=写真)は「韓国と北朝鮮は歴史的、文化的にみても共通の場を有している。南北に分断されたために、両国は違ったようにみえるだけだ」という。
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▲ルカ・ファチョ氏


2005年からこれまで6回、北朝鮮を訪問し、写真を撮ってきた。初めは撮影も難しかったが、今では北の国民の生活風景を撮影できる数少ない欧州カメラマンとして韓国でも認められている。

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▲ファチョ氏の写真「故金主席像前で献花する市民」(2014年1月21日、ウィーンの芸術家ハウスで撮影)

そのファチョ氏の写真・ビデオ展示会が22日から来月23日までウィーンの芸術家ハウスで開催中だ。同氏にとって、07年以来の展示会だ。

それに先立ち21日夜、ゲストや報道関係者が招かれたので出かけた。公式の開会挨拶まで時間があったので同氏と話す機会があった。以下、同氏との会見だ。

──今回の展示会のテーマは「共通の場」だが、南北間に共通の場は存在するのか。

「南北両国の国民の外貌、その歴史、文化、食文化まで同じだ。南北が分断されて両国国民の接触は途絶えたが、その共通性は今も変わらない」

──それでは、両国の相違点は何か。

「今回の展示会は右フロアには韓国で撮影した写真を、左フロアには北での写真を、そして中間フロアには南北両国の国民やその風景を展示した。あなたが、両国の相違点を知りたければ、中間フロアの両国の写真を比較してみればいいだろう」

──南北は分断後、あらゆる分野で異なった発展を遂げてきた。経済分野では両国間の相違は大きい。

「それでも両国民は同じ民族だよ」

──あなたは報道関係者の政治的な質問を拒否しているが、金正恩氏が国家指導者となって以来、北は変わったと思うか。

「自分は昨年3月、平壌を訪問した。2005年の初訪朝の時は写真撮影も難しかったが、昨年は欧州人の自分と一緒に写真を撮ってほしいと市民のほうが近づいてきたよ。また、数年前、米国人と写真を一緒に撮ることは考えられなかったが、米元バスケットボール選手が国家指導者と写真を撮る時代になった。その意味で、北も変わってきていると感じている」

会見後、ファチョ氏の写真を見て回った。北の展示フロアではカメラに向かって畏まった国民の顔、路上で遊ぶ若者の姿が印象的だった。

金日成主席像前で献花する女性の写真が展示されていた。写真は一人の市民が献花するところだが、主席像は両足しか映っていない。画面に入らなかったのではなく、意図的に主席像の両足の一部を背景に、献花する市民の姿を撮ったのだろう。同氏が何かメッセージを伝えたようとしていると感じさせる写真だ。

北朝鮮では張成沢氏の処刑、その後の粛清など生々しい政変が続き、国民は食糧すら満足に得られない。一方、韓国は経済発展を遂げたが、国民の精神生活は空洞化し、価値や伝統が喪失してきた。それらの情報に接していると、ファチョ氏の写真は余りにもドライな印象を受ける。日常生活を撮影しているが、国民の生の声は被写体からは浮かび上がってこない。ただし、厳しい状況下で南北国民の素顔を映し出そうとするカメラマンの懸命な吐息は伝わってくる。

なお、展示会主催者側の説明によると、「前回の展示会には南北両国の駐オーストリア大使が参加したが、今回は両国とも大使参加を見合わせた。朝鮮半島の政治情勢が反映しているからだろう」という。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年1月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。