「割烹着」と「成果」 --- 玄間 千映子

アゴラ

出るだろうなと思っていたら、案の定。ご本人から、遂に“お断りメッセージ”が出てしまった。
報道関係者の皆様へのお願い

研究者としては、業績に着目して欲しい。当然のことだ。

ところが、世論は「小保方春子の、人となり」に向かってしまった。

100年先の人類の幸せのためと悔し涙を流してまで続けてきたことよりも、「ムーミン好きの30才のリケジョ」の方に焦点があたってしまうなんて、彼女には屈辱に映ったに違いない、と気を揉んでしまう。頭脳の海外流出は、案外こんなことが引き金になったりするものだ。


そこで、それを防ぎ第二の小保方春子の成果を輩出しやすい世の中とするには、今回の件から日本は何を学ぶべきかを考えてみた。

確かに、この一件は研究以外のことに焦点が当たりすぎていた。それは誰しも、認めるところ。

けれど、日本中の誰も悪気があったわけではないし、まして研究の邪魔をしようなどと思ったわけなどではない。むしろ、祝福であり好意の表現ぐらいの積もりだったのではないか。もっと、もっと単純に「よくやった!」「でかしたぞ!」程度のつもりだったと思う。だから、彼女の“お断りメッセージ”に触れた多くの日本人は、なんだか気まずい思いがしたのではないか。

●海外との比較

この事態が起きるのを見越したかのように、小保方理論のメディアの扱いをめぐって「ロンドン電波事情」では、日本と海外の違いを次のように取り上げている。それによると、

中韓も含めた諸外国では、「この発明が何であるか、なぜ画期的なのかが紹介され、イギリスでは研究者の解説を盛り込み、医学などにどのように貢献するか、ということが明記され、彼女の年齢や性別には触れていない。
小保方博士に関しては「Dr Haruko Obokata」という明記があるだけで、女子の名には「子」が付きやすいという日本名の特徴を知らねば、男か女か識別できる情報は何もない。
ところが、日本のメディアでは「30歳の若き女性研究者」という紹介と共に、割烹着姿とムーミン好き、ペットにはカメを飼育している等々という面に焦点があてられ、研究そのものについて満足な説明が殆どされていない。

この稿の筆者は、海外と異なる情報を発信する、日本のメディアは「ゴシップ新聞」であり、日本社会の構造に女性差別を感じると論評する。

確かに、日本と海外メディアの取り上げ方には大きな温度差はある。

しかし、この現象は筆者がいうように、日本のメディアが「ゴシップ好きで、女性差別が根底にある」から生じたのだとは思えない。なぜなら、ネット住民の中での扱いも「タレントの○○似だね」「彼女の金の指輪、欲しいな…」「嫁さんになってくれないかな」など、日本のメディアの扱いと殆ど変わるものでは無かったから。つまり、メディアに留まらず日本の世論そのものが、研究内容よりも、小保方春子という“人物”に関心を持ったのだ。

●重視するものの違い

なぜこういう現象が生じたのか。

背景にあるのは、その社会で人材の何が重視されるのかの違いだ。他国は「実力」、日本は「人物」。

実力主義の社会であれば、自ずと世論は「“実力”とやらの中身」に関心がいく。人物重視の社会であれば、自ずと世論は「その人の“人となり”」に関心がいく。人物重視の社会とは、現実の人間社会を重視するところに力点があるので、まだ事業化されていない段階での事には関心が薄いのだ。

関心の薄いことは取り上げないのが、世の常だ。だから実力主義の社会では「人となり」など興味はないし、人物重視という事業化されていないことには関心の薄い社会では、「人となり」に関心が集中するのは、いわば自然なことなのだ。

よって、ロンドン電波事情が取り上げるような現象は、人材についてそれぞれの社会が重視しいているポイントが違うところから生じたのであって、海外と違うことをもってして「日本メディアや日本の人々はゴシップ好きで、女性差別をする社会」という切り捨てはいかがなものか。

実力主義、成果主義、人物重視等々のワードは、その社会の暮らしの価値体系にも深く浸透しているものであり、人事制度の中だけに登場するものではないのだ。

●再発防止は、評価軸の再考で

もちろん、私は日本の中でもこういう点は、よきものとは思わない。

なぜなら、人物重視の下での実力とは、その件に詳しいくない、直接関係しない人々の評判も伴うことを求めてくる。概してそういう人たちは、異常と新奇の違いが判断できない。

そのため、新奇なことについてはどうしても認めにくくさせる。それは、結局、新奇性より既定路線の追認行為を促す研究姿勢を育むことに繋がる。そういうことを促す体質では、今回のように「既知のことを覆す」ような研究はおろか、世界中で加速する研究速度に追いついていけるとはとても思えない。

頭脳流出を防ぎ、第二の小保方春子を生み出しやすくするには、日本はもっと事業化される前の段階、研究そのものを評価する姿勢を醸成することが必要だ。それには、「経験の発揮度」「工夫力の程度」という「ひらめき」を誘発する要因を軸に人事考課を組み立てていくべきだと考える。

玄間 千映子
(株)アルティスタ人材開発研究所 代表