「毒舌タレント」が重宝されるワケ

アゴラ編集部

嘘も方便、なんてことを言うんだが、我々の周囲には嘘か本当かよくわからないことがたくさんあります。重要なことから取るに足らない些細なことまで、虚実が入り乱れて判別不能。ネットでいくらググっても玉石混淆でわかりません。しかし、重要なことはそれほど多くない。逆に言えば、嘘でも本当でもどちらでもいいことがほとんどです。昨今、話題の「ウソつきベートーベン」にしても、いったい何が問題なのか、首を捻っている人もいる。ダマしたほうが悪いのか、ダマされたほうが悪いのか、どうでもいいことを騒ぎすぎるというわけで、作品が良ければ作者が誰かなんて問題じゃない、ということでしょうか。


芸能界やテレビの世界も虚構にまみれています。バラエティ番組などではよく「毒舌タレント」がもてはやされるんだが、ズケズケと「本音」を言ってくれるのが聴視者にとっても痛快だからです。マツコ・デラックスや有吉弘行、デビ夫人、坂上忍なんかがその典型。昔なら野村沙知代やビートたけし、などなど。最近の番組構成は、こうした「毒舌番組」が中心になっています。

しかし、番組制作側から考えれば、あまり本当のことを言われても困ります。結果、業界の裏ネタバラシばかりになり、視聴者に飽きられる。業界の内輪ネタに偏らず「言っちゃいけないこと」を本番では決して言わない安心感が彼らが起用されるキモでしょう。そうした意味で、毒舌タレントは「どうでもいい本当のこと」しか言いません。バラエティ番組で深刻で重要な本当のことを指摘されても困ってしまうでしょう。「どうでもいいことだけどなんとなく知ってた」事実を暴露するのが「毒舌タレント」の存在意義です。「毒舌タレント」はけっして重要なことで本音は言いません。

つまり、バラエティ番組には言ってもいい本当のことしか出てこないんだが、視聴者のほうも共犯的にワザとテレビにダマされていたりします。「お涙頂戴もの」にありがちな嘘も方便も予定調和な演出だったりする。テレビのバラエティ番組で毒舌タレントが重宝されるのは、この「どうでもいいこと」に対して毒を吐くからです。それが視聴者のカタストロフィになってもいる。

また、本当のことというのは案外つまらない内容だということも少なくありません。重要なことは表に出ず、取るに足らないものしか公にならないことも多い。さらに、本当のことは知りたくない、という人もいます。そんな中、重要で知りたいこと、どうでもいいこと、知りたくないこと、という区分けがあるとすれば、ジャーナリズムがいったい何を明るみに出す役わりを担わされているか、よくわかります。

池上彰のように政治や社会の問題について鋭くわかりやすく解説をし、政治家の素顔や嘘などをテレビの生番組であばくような「毒舌タレント」はごく少数です。以前は、筑紫哲也とか久米宏なんかが、政治や社会に対して「毒」を発散しまくっていた。しかし、池上彰にしても「みんなが知るべき重要なこと」ばかり明るみに出しているわけじゃない。NHK出身らしく表現はオブラートに包まれ、遠回しでわかりにくい皮肉も少なくありません。

こうした存在がごく少数になっている理由は、視聴者からの要請です。「毒舌番組」に比べると「重要なことを教えてくれる番組」は驚くほど少ない。どうでもいいことしか見たくも聞きたくもない。どうしてもやるなら婉曲な表現でやれ。視聴者は正直です。重要だとしても、あまり重たくて深刻な問題に真正面から取り組むほど、視聴者はヒマでも自由でもありません。政治にしても有権者は共犯的にうまくダマしてくれる政治家を探しています。嘘ならうまくついてほしい。しかし、そうした政治家も少なくなっているようです。テレビにせよ政治の世界にせよ、タレントも政治家も聴視者も有権者も質がかなり低くなっている、というわけです。

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アゴラ編集部:石田 雅彦