保守主義による革命 - 『レーガンとサッチャー』

池田 信夫
レーガンとサッチャー: 新自由主義のリーダーシップ (新潮選書)
ニコラス ワプショット
新潮社
★★★☆☆



本書の副題には「新自由主義」とあり、解説には「ネオリベラリズム」と書かれているが、本文にはどちらも出てこない。これは日本ローカルの政治的方言であり、レーガンとサッチャーの政治的立場は保守主義である。日本の保守主義は何を守るのかはっきりしないが、彼らの守るべき伝統は明確だ。

イギリスでは、それは18世紀の古典的自由主義である。サッチャーが保守党の党首に指名されたとき、ブリーフケースからハイエクの『自由の条件』を取り出し、「これがわれわれの信じているものだ」と宣言したのは有名だ。アメリカでは、それは合衆国憲法に書かれた建国の父の理念である。両者は党内右派で、キリスト教の信仰が強いなど似ている面が多いが、微妙に違う面もある。

イギリスの保守党は、基本的に地主や貴族などのジェントルマンの党である。雑貨店の子だったサッチャーは、反主流の右派だったが、労組のストライキが続いていたイギリスで、それに対決する方針を打ち出した。それに対してレーガンは若いころハリウッドの俳優組合の委員長だったぐらいで、政治的理念にはあまり関心がなく、それを理解する知性もなかったが、ゴールドウォーター以来の共和党右派の集票装置に乗って政権を取った。

最初は風変わりな右翼としか見られていなかった彼らを政権につけた最大の要因は、70年代の石油危機とスタグフレーションだった。それまでの「大きな政府」を志向する政策が行き詰まり、インフレと失業と財政赤字が悪化した。これに対して彼らは「小さな政府」という新しい理念を掲げてほぼ同時に政権を取り、革命的な変化を起こしたのだ。サッチャーはレーガンの顧問ともいうべき立場で、著者はこれを「政治的結婚」(原著の副題)と呼ぶ。

本書は2人の伝記としてはていねいに書かれているが、ミルトン・フリードマンを「サプライサイド経済学を唱えるマネタリスト」と書くなど、経済政策についての説明はお粗末だ。あまり新しい話はないが、今ではこの時代について知らない人も多いので、80年代の「保守革命」についての入門書としては悪くない。