中国のネガティブキャンペーンには要注意 --- 岡本 裕明

アゴラ

ネガティブキャンペーン=ネガティブアドなどをからめて行う、選挙のライバル候補や他社商品に対する徹底的な誹謗(ひぼう)・中傷キャンペーン(デジタル大辞泉)。

この言葉の意味は必要以上に対象の人やモノを叩くことですっとする快感を欲しているとも言え、普段の何気ないストレスの発散口としてあるきっかけでその動きに火が付くことになることでしょうか?


中国でニコンのカメラ「D600」がそのネガティブキャンペーンの矛先としてやり玉に挙げれらてしまいました。中国中央TVの「世界消費者権利デー」に合わせて放送する特番「3.15晩会」でニコンの製品と保証対応がやり玉に挙げられ、そして隠し撮りしされた内容は社員の対応までその批判の矢面とされ全部否定されている状態のようです。

この事件を聞いて二つのことを思い出しました。

アメリカでレクサスが叩かれたときと中国の文化大革命の紅衛兵の無謀な資本主義狩り。

なぜアメリカでレクサスが叩かれたか、それはブレーキが利かず事故が起きたという直接的なニュースをきっかけにあちらこちらから火の手が上がったもののトヨタ本社は大したことないと思い、北米トヨタに火消を任せていたことが結果としてワシントンで大きく取り上げられる事態になりました。では、早くから火消をしていればよかったのか、といえば、私はアメリカの中でレクサスを叩きたかったバックグラウンドが醸成されていたのだろうと想定しています。

それはアメリカではレクサスの評価が高まり、ラクジュアリーカーとしてキャデラック、リンカーンの牙城と完全にぶつかる状態になったからであります。アメリカではヨーロッパ系ラグジュアリーカーはマーケット層が若干違いますのでレクサスが一部の業界や人びとからすれば憎きライバルになっていたと思います。よって、あれは同社にとって忘れられない事件となったはずですが、結果を踏まえてレスサスはアメリカの中で更に同化したとみています。

いわゆる懲罰的な制裁とはアメリカでは大企業が一般消費者に対して強い影響を及ぼしている場合において行われるケースが多いものです。マクドナルドのコーヒー事件もしかり、マイクロソフトのソフト抱き合わせ事件もしかりです。もしかしたら今回GMがリコールを放置していた事件も同様の規模に発展する可能性はあります。レクサスの事件もこの範疇にあると考えています。

しかし、これらの事件はあくまでも消費者のことを考え、会社側ひいては業界全体に厳しい警告を発するという意図があり、最終的には産業全体の発展、向上のための「お仕置き」ともいえるでしょう。

ところが中国で起きているネガティブキャンペーンは完全に「叩く」ためにあります。例えばアップルのiPhoneがその対象になった時、国営放送があたかもコマーシャルのごとく、同社のサービス姿勢を批判し、結果としてクックCEOが謝罪するに至りましたが、その時、中国は「勝った」と思っているのです。つまり、ならば同製品を買おうか、という動きにならず、結果としてネガティブキャンペーンに勝ったからアップルなんてどうでもよい、という姿勢なのです。事実、中国でiPhoneは全然ダメ。人気の蚊帳の外であります。

ニコンの場合、高いマーケットシェアを持っていたわけですから当面非常に厳しい状態となるかもしれません。そして、仮にそのキャンペーンが終了しても同社の製品がさらに売れ出す保証はどこにもない、というのが中国内のビジネスなのでしょう。つまり、それまで築いてきた努力も一夜にして崩れ去るということが中国では日常茶飯事で起きるのです。これが中国市場のもっとも恐ろしいところであり、それゆえに私はこのブログでもいわゆるBtoCの業種は要注意と申し上げているのであります。

中国はメンツを大事にします。よって日本企業が中国に進出するときは日本ブランド単独よりも中国の会社と組んだ方がこういう事件が起きることを防ぐ対策にはなります。勿論、中国人パートナーとのビジネスは別の難しさがあるのでどちらが良いということは軽々しく言えませんが。

中国のネガティブキャンペーンの場合、その対象となった製品に「名誉挽回」のチャンスは与えられないと考えるべきです。文化大革命のとき、資本主義の犬というレッテルを張られた多くの中国人の名誉は回復されていません。つまり、自分たちが間違っていてもそれが間違いだったと認めないのが中国の特徴であります。

ここは北米と違う最大の相違点であります。「日本も一度失敗したら回復しにくい国」でありますので中国のことばかり書くわけにはいきません。先日、日本で熊本の「美少年」という日本酒が飲みたくていろいろな酒屋をまわったのですが扱ってなく挙句の果てにある酒屋で「(事故米をつかっていた)あんな酒、置けないよ!」と怒りに満ちた言葉を発せられました(美少年は会社が売却されて別の会社から新たに売り出しているのですが)。

やり直しの効く国、叩かれっぱなしの国、いろいろあると思います。長年北米にいると再生のチャンスがある北米というのは「優しい国」に見えてきてしまうのは私のひいき目なのでしょうね。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年3月16日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。