クリミア帰属問題、今回もプーチン大統領の勝ちか --- 岡本 裕明

アゴラ

クリミアの住民投票を受けた世界主要国の動きが今週の最も注目すべき事項になりそうです。仮に住民投票がウクライナ政府として認められないものであったとしてもロシアはクリミアの独立と併合を含めた何らかの救済を行うのでしょう。欧州は不満を、そしてアメリカは怒りを見せ、一定の経済制裁も発表される可能性が高いとみています。

それを受けてロシアも当然、報復措置に出る可能性が高いですから、この時点で新冷戦に突入するということになりそうです。


さて、この新冷戦、誰が望んでいるかといえば私から見るとアメリカがまたしても正義の理論を振りかざしているという風に見えるのですが、いかんせん、クリミアの住民が望んで分離したいと言っている以上、オバマ大統領のボイスがややかき消されてしまうのは「この問題の本質」が外交問題にすり替わってしまっているということかもしれません。

報復措置もいろいろあると思いますが、目先思いつくものとしてソチのG8が中止になること。大使召喚、主要関係者のビザ発給制限、投資制限などでしょうか? ただし、欧州とアメリカではその制裁に対する温度差が非常に大きく違いますので足並みが案外そろわず、制裁の内容が薄いものになりやしないかと思っています。

ドイツやイギリスからすればロシアは経済的にお得意様であり、双方の関係も極めて密接であります。ロシアに進出するドイツ企業は6200社、投資額は2兆8000億円あるとすればメルケル首相もオバマ大統領の誘いよりも国内産業界のボイスの方が影響力ははるかに大きいのであります。

1983年、東ベルリンからワルシャワ経由でレニングラード(サンクトペテルブルグ)に列車で行ったことがあるのですが、そのとき思ったのは第二次世界大戦でドイツとロシアが戦い、そのアンコになったポーランドを含め、その距離はごくわずかということでしょうか。戦争が裏を返せば利権の争いという発想であるからドイツとロシア(当時はソ連)が経済的連携を深めれば逆に戦争はしにくくなるという実感でした。

今、アメリカは海の向こうから「exceptionalな外交能力」(ライス補佐官)を持ってこの問題にちょっかいを出そうとしていますが、多分、外している気が日増しに強くなってきました。むしろ、アメリカは経済制裁を通じた世界経済への影響を重視しなければいけません。

仮に「新冷戦」になった時、ロシアは中国と「仮の」ブロックを作りやすい状況となります。欧州諸国とは表向きと裏向き(外交と経済貿易)の狭間の中、大きな動きは取れません。ロシアもこれ以上、西部/南部ロシアのことよりも東部ロシア(シベリア)の問題を日本と協議したいと思っています。言わずもがな、日本はロシアとディールがしたいのです。

ロシアを含めた新興国は経済先進国からのマネーが武器よりも欲しいのです。そのロシア向けマネーは欧州がキーであり、アメリカの都合でそのマネールートが制限されるようなことがあれば最悪の事態を招きます。結果としてオバマ大統領の外交能力も地に堕ちるということです。

つまり、新冷戦になるか、と言われれば案外アメリカはその手段を持ち合わせていないのではないか、という判断が最後に残ってしまうのです。個人的には今回もアメリカの失敗。そうなる気がします。「新冷戦」の意味は「熱く盛り上がらない(=冷たい)経済制裁戦争」というのが私の定義です。オバマ大統領は天を見上げて、「結局、今年の春はやっぱりゴルフ三昧しようかな」と思うことになりやしないでしょうか?

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年3月17日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。