人口減で容易に想像できる東京の「スラム化」 --- 江本 真弓

アゴラ

東京オリンピックに向けた東京湾岸の大型マンション開発ブームで、東京湾岸に新たに1万5千戸超が供給されるそうだ。

今後東京でさえ人口が減少する日本で、これだけの大型供給が続いて、東京はどうなるのだろうか。考察をしてみよう。


不動産余りの東京

総務省「平成20年住宅・土地統計調査」に基づくHome’s の見える!賃貸経営では、現在東京住宅ストック6百80万戸のうち11%の75万戸が空き家。

2013年11月1日東京都発表「人口推計」によれば、東京の人口は、東京オリンピックが開催される2020年の1336万人をピークに減少に転じ、2060年には約20%の1036万人に減少すると予測されている。ちなみに全国では半減だ。

減少人口の全員が一人暮らしではないが、既に核家族化が進んでいる東京では独居老人は少なくない。50年後には仮に半数の150万戸が主を失うと想定しよう。

例えこの想定が過剰でも、供給は続くから余りは増える。東京湾岸の1万5千戸超新規供給以外にも、国土交通省がマンション建て替え促進として、バカの一つ覚え的に容積率の大盤振る舞いを続けており、再開発の結果戸数が2倍増3倍増の例は後を絶たない。また従来のオフィスビル用地でのワンルームマンション建築も盛んだ。年間1万戸の供給でも50年では50万戸増える。そこで50年後にこの余った75万戸+150万戸=225万戸はどうなるのだろうか。

余った家はどうなるのか。

データ的には「東京は縮小する」と一言で表現できる。が現実の過程は簡単ではない。

①東京の外辺部から空き家になる訳ではない。
②築年の古い木造家から空き家になる訳ではない。
③地域に突然空き家が増えるのではなく、徐々に増えていく。

東京都外辺部の地域で数世代が同居する大家族の家もあれば、都心では1人又は夫婦暮らしのお年寄りは多い。相続人の有無及び売却の可否条件も様々だ。空き家は地域にランダムに発生する。

また不動産は、所有権及び土地及びコミュニティに関わる特殊性があり、集約が難しい。例えば隣のより条件の良い家が空き家になったからといって簡単には買い替えはしない。地域の人口が減って暮らしが不便になったからと、簡単に地域を離れはしない。地域・地区単位で縮小はしても、消滅はなかなか起こらない。

つまり「東京が縮小する」と一言で言っても、東京全体の居住密度が薄まるだけだ。あとは濃淡の違いでしかない。

そこで東京全域にランダムに増加する空き家は、どうなるのだろうか。

所有者が責任を持って解体撤去出来れば望ましい。とはいえあなたがある日突然に、親族若しくは両親が過去に居住はしていたが自分は居住しておらず、また売却見込みも薄い土地の上の建物解体費に、数百万円を出せと言われたら、簡単に出せるだろうか。例え一部補助金を出すといわれても、どうだろうか。

しかし誰かが費用を負担して建物解体撤去をしない限り、空き家は存続する。

昔の簡易な木造建築であれば、いずれ土に戻るかもしれない。が現在の新素材建築、鉄筋造もしくは鉄筋鉄骨造の建物は、丈夫だ。鉄もコンクリートも永遠に存続できる。50年程度では225万戸の廃屋は、まだまだ元気に存続する。

ここで、時々大震災で倒壊すれば無くなる的な声を聞くが、これについても整理したい。

④大震災だからと空き家が倒壊するとは限らない。
⑤空き家が倒壊しても、撤去費用は誰かが負担しなければいけない。
⑥建物が滅失する火事・津波は、空き家だけを狙ってはくれない。

過去の阪神及び東日本大震災でも、地震だけで本当に倒壊をした建物は多くはない(日本建築学会の判定基準「倒壊」と罹災証明書の認定基準の「全壊」との違いには留意したい)。

どのみち瓦礫撤去費用の問題は常に付きまとう。建物が滅失するのは火事・津波等の2次災害だが、この場合は空き家だけではなく広域地域が被災する問題がある。

都心の荒廃・インナーシティ、もしくはスラム化する東京

本題に戻り、では誰も解体費用を負担せず、廃屋廃マンションとして10年20年放置されたまま存続する225万戸の空き家はどうなるだろうか。

荒廃し、カビ・鼠等害虫には天国だろう。また家を持たない貧困及び人目につきたくない犯罪関係者にも、うってつけな魅力空間が広がるだろう。

建物の不衛生と貧困と犯罪は、近隣にも伝染する。近隣地域の衛生及び安全が悪化すれば、転居をして当然だ。この手の話は世界では珍しくともなんともない。都心の荒廃・インナーシティ、もしくはスラム街の発生過程が教科書通りに進行する。

東京も、荒廃地域・インナーシティ、もしくはスラム街が発生する。湾岸のように一部地域は再開発が出来るだろうが、需要が存在しない以上全地域の再開発は不可能だ。

この主原因は人口減少だが、現在の供給増加を前提とする再開発モデルでは、湾岸地域を始め一部地域の再開発が残りの地域の荒廃進行を後押しする。

過去の東京にもインナーシティ地域はあったが、これから新しく出来るスラム街は、過去の経緯に関係なく東京全域の住宅地域が候補の対象となる。ニューヨークで治安が悪い地域として知られたハーレム街も、元は高級住宅街だったことは、知られた話だ。

または次の可能性も考えられる。そうして価格が暴落した日本の不動産を、中国人をはじめとする外国人が購入し、日本国のオーナーが日本人ではなくなることだ。既に東京でも、再開発の見込みが薄い老朽化建物付き不動産の購入者は、中国をはじめとするアジア系というのは、隠れた定番になりつつある。

この想定はSFチックな推測に聞こえるかもしれないが、政府及び不動産デベロッパー及び大手マスコミが相変わらず演出したがっている「今後も再開発で都市は進化するモデル」よりはまだ、現実的な想定ではないだろうか。

江本 真弓
江本不動産運用アドバイザリー 代表