安易な「あほロワー」にならないために --- 江本 真弓

アゴラ

あほロアー」という言葉を最近見かける。「意識高く」「グローバル」で「強い」の対極表現としてのその意図は理解する。

本物の「あほロアー」は、そんな事は言わない。

が、しかし「人は思う通りの人間になる」「名は体を表す」等々、この世界のあらゆる自己啓発書及び宗教で言われている格言を鑑みるに、これからの日本では、万が一でもこれが実現すると困るのではないだろうか。


というのも言論アリーナの2014年4月8日放送「社会保障亡国論 動かない政治を変えるには? 池田信夫×鈴木亘×石川和男」


「ハードランディング」はいつ起こるか

の通り、10年以内にハイパーインフレが起こってもおかしくないこの日本だ。しかも団塊世代以降の私たちの世代では、社会保障が回ってくる期待もない。

日本の政府も東京オリンピックまでは、無理をして見栄と対面を維持するだろう。その後は誰も知らない。ただ今の40歳が70歳になる30年後には、ハイパーインフレで、100円ショップは200円ショップになっているかもしれない。今の虎の子1000万円貯金は、100万円の価値しかなくなる。

更に年金支給開始年齢は、75歳以上に。医療費はほぼ全額自己負担に。

ということらしい。

もちろん現在の40代以下にとって問題の本質は、そんなことを言われてもどうしようもない、という複雑な感情だとは理解している。でその苛立ちを刺激することを承知で言わせてもらえば、だからこそ、英語コミュニケーション力の向上を、お勧めしたいのだ。

私も昨年ヒットしたTVドラマ『半沢直樹』の世代だ。ドラマの『半沢直樹』でも「上の世代の尻拭いばかりさせられてきたバブル入社組の意地」的なセリフがあったが、本当に損な星回りの世代だとつくづく思う。

子供の頃は、良く勉強して良い大学に行き良い会社に入れば一生安泰だと言い聞かされ、勉強を奨励されてきた。

多感な中学高校時代、世の中はバブル景気に浮かれて人生は簡単そうだった。

大学に入学したころはまだ就職は売り手市場で、先輩たちには就職先を早く決めすぎないよう注意されたが、卒業の頃には就職氷河期。
暗黒の90年代後半はそれでもITバブルがあり、またコンサルティングファームや不動産金融等新しい黒船ビジネスの到来があり、頑張れば新しい未来が開ける希望があった。

しかしここでも美味しい実を取れたのは、タイミング良い時期に良いポジションを取れたのは上司の世代。以降の世代にとって実力主義の「実力」とは思ったものと違った。そしてリーマンショック。気がつけば若くない。

身を粉にして働いた。ビジネスパーソンの必須条件として英語も表に裏に努力をしてきた。なのにその先に幸せを見つけられなかった。というのは私たち世代の大多数ではないだろうか。

にも関わらず更に「意識高く」「グローバル」で「強い」でなければ、「あほロアー」でしかいられない。しかも待ち構えるのは、社会保障も食いつぶされた暗黒の老後。だとしたら、日本はやはりどこかおかしいのだと思う。

だから日本を変えようという話しではない。ただこんなに努力してきても、「意識高く」「グローバル」で「強い」でなければ、「あほロアー」として開き直るしかいられない気分にさせられる、この日本のかわいそうな被害者で甘んじるのも詰まらないと思えば、他のあり方を作るしかない。そのためにはやはり海外の様々な考え方や視点を取り入れるのが、手っ取り早い。その手段として、英語コミュニケーション力は、効果があるというわけだ。

ここでの英語コミュニケーションとは、外資で高級幹部を目指すためのビジネス英語の話しではなく、もちろんそれも良いのだが、今やアメリカやイギリスや一部のビジネスエリートだけの言葉ではなく、世界中各国の人達が使い、コミュニケーションをしているインターナショナル言語としての、英語のことだ。

そうして英語コミュニケーションをしたい理由は、日本人の日本の殻から覗いて手が届く程度の外国は、既に日本に取り入れられている。その先の深い理解と連帯には、対等な英語コミュニケーション力が欠かせない。

とにかく国内でも海外でもインターネットを通してでも、様々な国や人種や宗教背景を持つ人達とフラットに話しをして、世界の多様な考え方や視点に接すれば、日本だけの問題と思っていた事がそうではなかったり、こうしかない、と思っていたことが、別の考え方もあったりと、自分に新しい風を吹き込むことができる。

私も海外の友人がいなければ、サバイバルは難しかった。それは、日本人相手より外国人相手の方が悩みを話やすいこともあったが、欧州の一見問題なく見える友人達の誰もが、それぞれ国や社会や家族や会社やキャリアに、シビアな問題を抱えながらも「強かに」サバイバルに取り組んでいたので、そんなものか、と思わせてくれたことが大きい。結構そんなものなのだ。

損な星回りの連続でも、年齢と共に背負うものも増え、キャリアや人間関係のリベンジは難しくなるばかりだが、英語コミュニケーションのリベンジなら年齢に関係なく、とりあえず始めてみることが出来るのではないだろうか。

とにかく自己定義の名称はなんでもよいが、半沢直樹以後の世代にとって、大震災以上の高確率で予測されている、将来のインフレと社会保障財源枯渇で誰も助けてくれない暗黒日本で、本物の「ロアー」にならないために、東京オリンピックまであと6年は、自助努力の「力」を向上させる貴重なラストチャンスだろう。そこで英語コミュニケーション力は、とりあえず何か取り組む一歩として、実は一番手軽で効果的ではないだろうか。

江本 真弓
江本不動産運用アドバイザリー 代表