韓国のフェリー海難事故で、乗客を放り出していち早く逃げ出した船長に批難が集中しています。ネット上には、韓国人だから、といった意味の揶揄や嘲りも上がっていますが、モラルのあるなしは民族や国民性の違いによるものではないでしょう。2012年に地中海で起きた「コスタ・コンコルディア号」座礁事件でもイタリア人船長が逃げ出しています。
報道によると、韓国の船長は短期雇用の契約社員だったようです。韓国の海員事情については、兵役免除のために船乗りとしてのモラルもモチベーションも持たずに船員になる人間も多いと言われています。こうした「職業倫理」を組織集団で強制するのは難しいのかもしれません。個人の資質にもよるでしょう。しかし、個々人がその職業を選択するにあたっての動機とその職業に就いていることのプライドなどによって、少しずつ意識の中に醸成されていくものではないかと思います。
ところで、日本でも雇用者被雇用者や業種業態に限らず、同じような「職業倫理」の崩壊が起きているようです。たとえば、医師が診療報酬のために、不必要な治療をしたり投薬の指示を出したりするようなことが横行するようになっている。経営者の倫理観欠如から起きる企業不祥事や食品の偽装事件も枚挙にいとまがありません。
また、以前ならバイトやパートといえども自分の仕事にプライドを持って仕事をする人間が多かったように思います。しかし、少ないスタッフでの作業を強いるファストフードチェーンで閉店状態が続いたり、居酒屋チェーンが店舗展開を縮小するなど、こうした人手不足の背景には底辺サービス労働による「職業倫理」の欠如があるのでしょう。
ファストフードチェーンでの労働は、誰でも平均レベルのサービスができる内容にマニュアル化されています。自分がいなくても誰でも代わりがいる状態で、働く意欲が喚起されたりモラルを保持して勤め先に義理を果たすのは難しい。むしろ雇用側のほうが、働き手にこうしたモラルやモチベーションを持たせないようにしてきたようなところさえあります。それで人手不足と騒いでも誰も同情しないでしょうし、今では底辺労働に限らず「一流企業」でさえ同じような発想で雇用しようとしています。
もちろん、乗客を放り出して逃げ出す船長など言語道断ですが、自分の仕事の本質もわからず、理解しようともせず、単に金を稼ぐだけの手段としてしかとらえられない人間が増えているんだと思います。利他的な行動をとる人間と利己的な人間の割合が変わってきているんでしょうか。強い動機もなく職業を選択し、誇りを持てないまま瞞然と仕事を続けているのかもしれません。
「IMF危機」により韓国経済も大きく変質しました。日本も2000年代から後を追うようにして雇用環境が激変しつつあります。いわゆる、小泉竹中改革の結果、日本でも雇用の流動化や社会保障の企業負担減が進められました。これは先進国で同様に行われてきた政策であり、今となってはこうした政策以外の選択を考えても後の祭りでしょう。一度、後退すると止めどが効きません。
世界的に賃金のエントロピー増大が起き、富の再配分が不均衡になり、社会層の経済格差が広がっています。エーリッヒ・フロムは『自由からの逃走』の中で、人間が自由になるために必要なものは「愛情」と「自発的な仕事」と説いている。不自由であることを求める我々は、両方とも失いつつあるんでしょうか。韓国人船長の事例は、こうした環境変化で世界中に現れてきた様々な「職業倫理」の崩壊現象の一つなのかもしれません。
Blog vs. Media 時評
必死でないベストは役に立たぬ:韓国船と福島原発
入社して数年たってから仕事が面白くなるのは個人の成長とは無関係
脱社畜ブログ
このタイトルの通りと一概には言えないと思いますが、会社で経験を積めば誰しも仕事が楽しくなる、というのは一種の「神話」でしょう。後輩も入ってくるし、社内での立ち位置も変わってくる。ただ、入社し立ての新入社員というのは、ほとんど右も左もわからない状態なので、仕事が楽しいという気持ちにはなりにくいでしょう。石の上にも三年、なんて言葉もあります。古くさいなんて笑っちゃいけません。なんでも最初は楽しくないものです。ゲーム感覚でスキルとパワー、アイテムを蓄積し、少しずつ上のステージへ上がっていけばいいんじゃないかと思います。
Shinzo Abe’s wartime shrine tribute risks inflaming China tensions
the guardian
4月21日のガーディアン紙です。オバマ大統領のアジア歴訪、靖国神社に玉串料を奉納した安倍首相と、春の例大祭に参拝した閣僚や国会議員たちについて書きつつ、中国司法が決定した日本船舶の差し押さえの影響などについて分析しています。今回の商船三井の船の件については、特別な事例なのか、この先も同じような判決が出るのか、ちょっと予断を許さないところがあります。韓国の戦時徴用の保障判決などと同列に扱えるのかどうかわかりません。ただ、核実験の構えを見せる北朝鮮の動向やロシアと中国の関係など、アジア情勢はやや流動的になりつつある。オバマ大統領の来日や日米首脳会談、アジア歴訪によって、大きく状況が変わるとも思えませんが、慎重に推移を見守る必要がありそうです。
聞いたことある?信憑性をおびてネットに出回った28のデマ
カラパイア
明らかなウソで多数の人間を騙すことは難しいと思いますが、本当か嘘か判別が難しく、また自分にとってどうでもいい「デマ」は完全に信じないまでも、まことしやかな顔をして酒場の話題くらいにはするかもしれません。この28個の「デマ」を眺めていると、恥ずかしながら自分でもホンマかいな、と思いつつ、信じていたものもある。あと、そんなの知らなかったというものも。たとえば、毛を剃ると毛深くなる、というのはなんとなくそうかも、くらいに信じてました。中世の人間が地球が平らだと信じていたのはウソ、というのは、ちょっとした「へえ」ですね。
人間の腸内細菌の個体数は100兆, そのDNA配列を調べて個人的な食生活アドバイスをくれるWellBiome
TechCrunch日本版
こうしたこともあると思いますが、風邪薬や炎症治療薬などの多用で抗生物質漬けになると、自分の口内菌や腸内菌が死滅し、リセットされることで構成が変わってくる、と主張する人もいます。こうした共生菌は、一人ひとり指紋のように違うらしい。年齢や食生活、病歴などによっても変化するんじゃないかと思います。また、未知の細菌もまだまだたくさんいるようで、歯周病菌などの口内菌も日々、リストが新たに書き換えられている。ただ、こうした試みは興味深いし、将来的には商売になるのかもしれません。
アゴラ編集部:石田 雅彦