北朝鮮の朝鮮中央通信は6月16日、金正恩第1書記が朝鮮人民軍の潜水艦部隊第167軍部隊を視察し、潜水艦に乗艦したことを写真付きで報じた。金正恩氏が人民軍潜水艦部隊を視察したことについて、韓国国防部は「北の潜水艦戦力を誇示する目的がある」(韓国聯合ニュース)と分析している。当方は別の考えを持っている。以下、それを説明する。
金正恩氏が潜水艦に完全に乗り込み、潜水艦と共に洋上に出た。陸では第1書記を見送る軍関係者が息を潜めて潜水艦を見つめている。そして潜水艦が完全に海の中に消えた時(視界から消えた時)、潜水艦を見守っていた軍関係者の中から一人の青年将校が立ち上がり、「これからは私が母国を指導していく」と表明した。軍クーデターが北で初めて起きた瞬間だ、それも無血革命だ。
独裁者は陸で軍クーデターが起きたことを知らず、初めて体験する海の世界の神秘を満喫しながら側近と酒杯を交わす。数時間後、そろそろ退屈してきた。金正恩氏は陸に戻るように艦長に命令した。潜水艦は次第に浮上する。潜水艦は完全に浮上し、ハッチが開けられた。金正恩氏は外の空気を吸おうと立ち上がった時、そこは第167軍部隊の駐留地ではなく、政治犯収容所に近い埠頭だった。事情を理解できない金正恩氏は艦長に「ここはどこか」と怒鳴ると、船長は落ち着いた声で「金正恩、ここはあなたがこれから過ごす政治犯収容所のある軍基地だ」と語った。
以上、金正恩氏が潜水艦に乗艦したと聞いた時、当方の脳裏に瞬間浮かんできた映像だ。もちろん、実話ではない。陸を離れ、潜水艦に乗艦するということは独裁者にとって危険が伴う行動だ。独裁者の周囲にはもはや数人の側近しかいない。一方、陸には独裁者を憎む大多数の国民と乗艦しなかった軍・党関係者がいる、という構図を描いてみれば、金正恩氏が潜水艦に乗艦したのは決して「北の潜水艦戦力を誇示する」といったプロパガンダが狙いではなかったはずだ。
金正恩氏の父親・金正日総書記は飛行機嫌いで有名だった。同総書記は自分が搭乗した飛行機が敵に撃ち落されるのではないかという恐れを払拭できなかった。一方、息子で後継者の金正恩氏は飛行機に乗った。父親とは違う。そして今度、潜水艦にも乗艦したのだ。金正恩氏は潜水艦に乗艦し、陸から離れることの危険性を考えていなかったのだろうか。北の若い独裁者がその危険性を完全には計算していなかったかもしれない。ひょっとしたら、人民軍関係者の一部が金正恩氏を持ち上げ、潜水艦部隊の視察と乗艦を勧めたのかもしれない。
金正恩氏は、潜水艦部隊を視察し、潜水艦内をチラッと見ただけななのか、それとも潜水艦で洋上に出、海に潜水したのか、北側の情報だけでは不明だが、朝鮮中央通信が金正恩氏の潜水艦部隊視察と関連写真を発表したということは、金正恩氏にとっても潜水艦の乗艦がかなりの冒険だったことを物語っている。
独裁者は陸を離れ、自分の支配が届かない空や海に飛び出すことへの強い恐怖心を持っているものだ。金正恩氏は飛行機に乗り、潜水艦にも乗艦し、それを写真で公開した。これは金正恩氏周辺には軍クーデターを計画する人間がいないことを示している。金正恩氏の潜水艦乗艦は、北の潜水艦能力を誇示するためではなく、同氏が完全に実権を掌握していることを内外にアピールするためだった、と当方は受け止めている。
編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年6月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。