失言の揚げ足取りというのは後味が悪い。特にセクハラ呼ばわりは反論がしずらいので、武器としては強力やが、生産的な議論になることはまず無い。まあ、セクハラ自体が生産的とは言えんのやから、しゃあないと言えばしゃあないんやけどな。
セクハラは定義がはっきりせん。ウィキペディアによれば、「相手の意思に反して不快や不安な状態に追いこむ性的なことばや行為」とある。常識的な見解やとも思うが、具体的な線引きをこの定義からするのは、むちゃくちゃ難しい。
同じウィキペディアの項目で、例として、「職場に限らず一定の集団内で、性的価値観により、快不快の評価が分かれ得るような言動を行ったり、そのような環境を作り出すことを広く指して用いる」というのが挙げられているが、にわかには賛成しかねるで。
たとえば、「男尊女卑を信じている男性に(いじめとして故意に)女性の上司をあてがう」のはどうなるんやろう。もう少し常識的な例を出そか。「公式の場ではイスラム教の女性にブルカの着用を認めない」のはどうなる。
逆に、「公式の場では女性にブルカの着用を強制する」のはどうなる。ブルカというのは無用な性的アピールを抑制するための物で、着用しない女性を公然と見せられるのは、ある種のイスラム教徒にはセクハラになるのではないやろか。
結局、セクハラを実体的に定義しようと思ったら、あらゆることの価値観を吟味し整理せなアカン問題がごろごろ出てくる。いわゆる「政治的正しさ」を能天気に信じている人以外には、結構、面倒臭い議論になる。
さて都議会のヤジ問題や。非正規発言を厳密に言い出したらキツくなるのは野党の方やがな、どこで矛を収めるか見てたら、やっぱり謝罪で終了。まあ、こんなもんやろ。下品で政治的に正しくない行為をしたアホに注意をしましたという扱いや。
ただ、ワシとしては、この議員の気持ちが分からんでもない。ヤジを受けた塩村都議がしていた質問は、少子化対策を目的のひとつとした女性支援の話やったはずや。35歳の未婚独身女性議員が、こういう議論をするなら、誰でも「あんた自身はどうなんや」と聞きたくなるはずや。
プライベートな問題やし、性にまで関係する話やから、答えたくない気持ちは当然やと思うが、税金を使う政策を求めている以上、自分の立ち位置は説明するのは義務やろ。
わかりやすく問い直せば、「議員自身は少子化対策と逆行する生き方をしておられるが、それは公の支援が足りなかったからなのですか?」という問いや。答えがYESなら、次の問いは、「どんな時期にどんな支援が必要でしたか?」という風に、どんどん生産的かつ説得力のある議論になる。
逆に、最初の問いの答えがNOなら、「この政策が効果的だとあなたが想定する女性と、(若い時の)あなた自身とはどこが違うのか?」という話になる。露骨に言えば、「エリート女性と母親になる女性を分けて考えていませんか?」ということや。
ほとんどの先進国では、出生率が2.1を切って少子化が始まっている。いずれも、近代的な意味での男女平等を達成している国や。「政治的に正しい」国といってもええ。ワシは常々、現代的な定義での男女平等と少子化防止は両立せんのやないか、という疑問を持っている。
先進国の中で、出生率が例外的に高めのアメリカやフランスは移民国家や。国内に先進国と途上国が併存していると言えばわかりやすい。当然、階級社会になっていて、出産数を稼いでいるのは貧しい側の女性たちや。
「女性であるというだけの理由でエリートコースに乗る道が閉ざされている」ことに激怒する人は多いが、「貧しい家に生まれたというだけの理由で<以下同文>」にはみんな比較的寛容や。そやから、「仕事はエリート女性に、出産はそうでない女性に」、ということになりがちや。きっと、政治的には正しい主張なんやろな。
こういう背景があるから、出産経験も子育て経験もない女性政治家が、少子化対策の話をしだすと、どういう魂胆があるのか疑いたくなる。シンプルに考えれば、補助金がらみの少子化利権あたりやと思うがな。ヤジの一つもとばすヤツが出てくるやろ。
もうひとつ気に入らんのは、塩村都議の見せた涙や。小学生やあるまいし、下品なヤジを飛ばされただけで、何も泣くことはないやろ。もしかしたら、議員自身もヤジの背景にある文化を共有しているのではないかと、勘ぐりたくなる。
はっきり言うてしもたら、「ええ年して嫁にも行かんと子供も作らずに活動していること」に後ろめたさを感じいて、そこを指摘されて泣いたのと違うか、ということや。そうでないなら、泣かずに怒ったらええやないですか。
女は嫁に行って子供を作って一人前、という価値観。差別そのものや。政治的には全く正しくないやろう。国家経済的にも不利な考え方かもしれん。そやけど、未開時代以来、人類の再生産を支える一端になっていたのは事実や。
この価値観、おそらく多くの日本人は嫌悪感を感じながらも、どこかに引っかかりがあり、何かの拍子に表に出てくるんやろな。ヤジを飛ばした議員もそれに泣いた議員も、多かれ少なかれ共有しているのと違うかな。
伝統的な価値観を捨てるのなら、何か代わりになるものがないと、少子化はどんどん進むはずや。男女平等のイデオロギーに殉じて少子化を甘受するのか、何か代替になるもの(たとえば移民政策、社会の階級化の容認)を持ってくるのか、大問題や。
この問題には、完全に良い解決はない。何かを選べば何かを失う。そして、何を取るのかは、国ごとに決めるより仕方ない。そやから、外国人にこの問題を上から目線で言われても困る。
塩村都議が日本外国特派員協会の招きを会見したらしいが、少子化が止まらんドイツの記者や移民問題で苦しむフランスの記者に、偉そうに言われる覚えはない。そんなに他の国の男女平等が気になるなら、まずサウジへ行ってこいや。
今日はこれぐらいにしといたるわ。
帰ってきたサイエンティスト
山城 良雄