魅力的な異性に「一目惚れ」するメカニズム

アゴラ編集部

恋をすると胸がドキドキして、ちょっと普段とは違う心持ちなり体の状態なりになります。よくある恋愛指南書に、意中の相手と一緒にジェットコースターに乗れ、というのがあるんだが、これは恋のドキドキ感と絶叫系マシン体験のドキドキ感をリンクさせ、相手を勘違いさせる、という戦術らしい。

恋をすると我々の脳内にはPEA(フェニルエチルアミン)と総称されるいろんな神経伝達物質が出ます。PEAは、アルカロイド、つまり麻薬物質の一種。その仲間は、ドーパミンやノルアドレナリンなど多種多様です。脳の働きは一種の化学反応なんだが、ある神経伝達物質が作用して特定の神経細胞を「発火」させると、それが伝達されたり広がったり、変化したりして何らかの行動として表現されます。


我々の脳では、恋愛に関して三つの遺伝子が働く、と言われています。その三つとは、性欲、恋、愛。セックスしたいという欲望には、テストステロンが関係しています。相手を探してあちこち徘徊し、積極的で攻撃的、ときに極端な行動をする。セックスしたいという行動には、こうしたむき出しでナマな衝動、原始的な遺伝子が働いているというわけ。

相手を見つけたら恋をします。恋に落ちる、フォーリンラブ。どうも、複雑な行動をする生物ほど、ナマな性欲から次の段階、恋をする段階へ進むようで、その最たる存在が人間で、いったん恋に落ちるとPEAが脳内にドバッと放出される。こうなると、もうめくるめく大嵐が頭の中を駆け巡り、疾風怒濤のような混乱に陥り、もういてもたってもいられなくなります。

こうした恋に落ちたときの「症状」は、神経伝達物質の異常によって引き起こされる潔癖症や先端恐怖症などの強迫性障害によく似ているんだが、おもしろいのは、恋をすると熱の刺激や痛みの敏感さに関係した物質NGF(nerve growth factor)の血液中量が増えます。これが増えるから恋に落ちるのか、恋に落ちたから増えるのか、いろんな意味で恋は神経の敏感さと関係しているということでしょう。

オスとメスが互いの遺伝子を混ぜ合わせる有性生殖では、より良い相手を見つけ、ライバルに競り勝ってセックスすることが重要です。魅力的な異性が現れると性ホルモンが分泌され、ライバルとの戦闘態勢に入ったり、ドキドキしたりする。しかし、四六時中、アドレナリンやテストステロンが活性化してたら疲れちゃうでしょう。

生物には発情期のあるものも少なくないんだが、ある環境の条件下で「一目惚れ」をすることがあります。我々ヒトには発情期はない、と考えられている。しかし、魅力的な異性を見ると、その刺激によって脳からなんらかの信号が発せられ、性ホルモンの分泌が変化することになる。これが「一目惚れ」のメカニズムです。

たとえば、オスがメスを「見る」と視床下部から「GnRH」という「生殖腺刺激ホルモン」を放出させるホルモン物質が出されます。それが下垂体に働きかけて生殖腺刺激ホルモンが、さらに生殖腺刺激ホルモンが生殖腺に作用して各種の性ホルモンが全身に巡り回る、ということになっているらしい。

『The Journal of Neuroscience』に掲載された「A New Pathway Mediating Social Effects on the Endocrine System: Female Presence Acting via Norepinephrine Release Stimulates Gonadotropin-Inhibitory Hormone in the Paraventricular Nucleus and Suppresses Luteinizing Hormone in Quail」という表題の研究では、オスがメスを鳴き声で呼び寄せ、メスが現れるとすぐに仲良くなって交尾するウズラの脳から出される物質を調べてみたようです。すると「GnRH」というアクセル役の物質と、逆に生殖腺刺激ホルモン分泌のブレーキになる「GnIH」という物質がバランスをとって性ホルモンをコントロールしていることがわかった。ちなみに「Quail」というのは鳥類のウズラのことです。

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脳ホルモンが生殖腺からの性ホルモン分泌を制御する機構。早稲田大学 筒井研究室のプレスリリースより。

この研究で興味深いのは、ウズラのオスがメスを「見る」と、注意や覚醒に関係した神経伝達物質である「ノエルピンフリン」が出て、ブレーキ役である「GnIH」の放出を増やし、その結果として生殖腺刺激ホルモンや男性ホルモンであるテストステロンの量が減る、ということです。本来ならオスがメスを「見る」とアクセル役の「GnRH」が出ると思うんだが、どうも「一目惚れ」はそう簡単なメカニズムじゃないらしい。前述したように、オスがメスを探す際にはテストステロンが関係しています。しかし、いったんメスに巡り会うとその量が減るというのは、テストステロンによる攻撃性を減退させ、交尾しやすいようにメスを安心させているのかもしれません。

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早稲田大学 筒井研究室のプレスリリースより。

早稲田大学
一目惚れの分子メカニズム 異性の存在が性ホルモンの分泌を変える仕組みを解明


Ed Snowden Sides With Russia On FBI Intelligence About Boston Marathon Bombings
BUSINESS INSIDER
米国国家安全保障局(NSA)の諜報活動をリークしたエドワード・スノーデン氏が、2013年に米国ボストンのマラソン大会で起きた爆破テロについて、ロシアの情報機関から情報提供されていたのにもかかわらず米国当局はそれを食い止めることができなかった、と「ガーディアン紙」に話しているようです。イスラムテロ組織の個人名までわかっていたらしい。意図的に「泳がせていた」んでしょうか。米国の当局者は、情報が得られても犯人を止めるのは難しかった、と言い訳しています。

13 Global AIDS Leaders Mourn Missing Colleagues Who Died On MH17
BuzzFeeD
HIV(Human Immunodeficiency Virus)が原因となったエイズ(AIDS、後天性免疫不全症候群、Acquired Immunodeficiency Syndrome)の治療方法は、最近ではかなり進歩し、有効な治療薬の可能性も見えてきた、と報じられています。HIVウイルスに感染すると免疫力が極端に減退し、免疫不全による様々な病気にかかりやすくなる。治療の基本は、HIVウイルスの量を減らし、本来の免疫力を取り戻すことにあるんだが、抗HIV薬の強い副作用や耐性菌の出現などの問題がまだたくさんあるようです。こうしたエイズ治療の研究者ら約1万2000人が世界約200カ国から一堂に会する国際学会が、オーストラリアのメルボルンで開催されています。そこにはマレーシア航空17便に登場していた研究者ら6人も出席する予定でした。これは彼らの死を悼む13人の世界的研究者のメッセージを紹介した記事です。

いすゞ、ユーグレナ社は共同で次世代バイオディーゼルの実用化を目指す「DeuSEL(R)プロジェクト」をスタート
いすゞ自動車
バイオ関連株やロボット関連株などが上がっていたりするんだが、このリリースもけっこう注目を集めました。ミドリムシという微細藻類の大量培養技術で上場したユーグレナは、東大農学部の出身者が中心になって立ち上げたベンチャー。「藻類」というのは、次世代の地球を救う生物かもしれません。

Scientists complete chromosome-based draft of the wheat genome
PHYS.ORG
「ヒトゲノム計画」というのは、我々ヒトの全ゲノムを解読する、という国際的なプロジェクトです。とりあえず2003年には当初の目標であるヒトの全ゲノムがわかったわけなんだが、それ以前には、線虫(C.elegans、1998年)、キイロショウジョウバエ(2000年)などのモデル生物のゲノムが解読されていました。ヒトの後、ラット(2004年)、メダカ(2007年)などの脊索動物の全ゲノムも続々と解読されています。我々アジア人の主食であるイネは2004年12月に完了。これは1991年から開始された日本の国家的プロジェクトで、その成果は「農業生物資源研究所のデータベースに公開されています。この記事では、パンの原料となるコムギの全ゲノムが解読された、と書いている。パンコムギのゲノムはイネの約3倍の情報量があるらしい。染色体の数は7の倍数で21対42。3セット6倍体なので、その中に書かれているゲノムコードも膨大なようです。ちなみに、コムギの染色体数が7の倍数であることを発見したのは戦前日本の研究者です。


アゴラ編集部:石田 雅彦