1週間ほど前の日経新聞の記事について、原子力関係者の怒りの声を聞いたのでその要点をまとめてお届けします。
問題はこの記事です。(全文は有料会員限定)
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原発のごみ保管「空冷式」に脚光
川内、秋にも稼働で問題再浮上 電源喪失や衝撃に強く
原発のごみ保管「空冷式」に脚光 川内、秋にも稼働で問題再浮上 電源喪失や衝撃に強く - 日本経済新聞国内の原子力発電所が再び稼働しようとしている。全国16原発の先陣を切って、九州電力の川内原発(鹿児島県)が今秋にも運転を再開することになりそうだ。原発が本格的に動き出すと、また、たくさんの使用済み核燃料がゴミとなって発生する。従来のような水をはったプールではなく空気で冷やしながら保管する手法を拡大する検討が始まった。
いくつか問題点があるようなのですが、まずは事実関係を見てみましょう。
下記チャートの左は「事実関係を時系列で書いたもの」、右はその事実が意味することはこうだろう、という私の解釈です。時系列部分の箱が黄色のものは、原子力規制委員会の発言や行動についての事実、青は日経の記者によると思われる、ミスリードを起こしかねない記述です。
まず問題点の1つめ、日経の記事では冒頭で
「従来のような水をはったプールではなく空気で冷やしながら保管する手法を拡大する検討が始まった」
とあり、一見、空冷式が新しい方法であるかのような印象を与えますが、実際には計画段階から数えれば20年以上前から実績のある方法( [A-1] )であり、しかもそれは電力会社(東電、日本原電)が進めてきたものです( [A-2] )。
にもかかわらず記事では「電力会社は、プールでも安全性は確保できると説明」と、うっかり読むとまるで電力会社がこの方式に反対しているかのような印象を与える書き方( [A-3] )をしています。
そこだけでも問題ですがもう一つのより大きな問題は、
昨年8月に青森県むつ市に完成している中間所蔵施設の
使用前検査を法的根拠なく規制委員会が拒否したことが記事中に書かれていない
ことです。「使用前検査の拒否」がいったい何を意味するのかというと、
敦賀原発の安全性を高めるための対策を規制委員会が妨害したも同然の行為( [B-2] )
なのです。
そもそも規制委員会は2013年5月に敦賀原発の立地を活断層と認定しています。この認定自体、科学的には極めて疑問なのですがとりあえずそれは置いときましょう。
100万歩譲って 「敦賀原発は活断層の上に立地しているから危険」 だと言うのであれば、
その活断層の上の使用済み燃料プールに保管されている大量の使用済み燃料は一刻も早くより安全な場所に移すべき
でしょう。実際、田中規制委員長は、「どう考えても(プールではなく)容器に入れるのが安全」と発言したそうです。では、なぜむつ市の中間貯蔵施設の稼働を妨害するのでしょうか。
金属キャスクへの保管は世界的にも日本でも20年以上前から行われており、安全性の高さが実証された技術です。それを使わせずに、彼ら自身が「危険」だと主張する敦賀の使用済み燃料プールに大量の使用済み燃料がある状態を放置しつつ、電力会社が「乾式貯蔵方式に反対し、プールでも安全に保管できると詭弁を主張している」かのような印象操作を行っているわけです。
確かにこれは電力の人間にしてみれば頭の血管が切れそうなほど怒りにブチ切れてもおかしくないでしょう。
特に [A-3] と [B-3] の組み合わせは電力会社の印象を悪くするためのコンビネーションプレーの一種ではないかと疑わざるを得ず、このような記事を書くようでは日経新聞も報道機関としてのクオリティが厳しく問われるというものです。
敦賀原発は日本原電の原発であり、むつ市の中間貯蔵施設はその日本原電が東電とともに出資して作った施設です。自社の安全への努力を完全に無視され、逆に「安全への努力」に反対する悪者扱いするかのような記事を書かれて怒らないほうがおかしいです。