マフィアの「神様」 --- 長谷川 良

アゴラ

イタリアのマフィアは神を愛し、聖母マリアを崇拝しているから、教会から破門されることを恐れているという。組織犯罪グループで、人を殺害することを躊躇しないマフィア関係者が神を信じ、教会から破門されないかとかなり深刻に悩んでいるというのだ。

独週刊誌シュピーゲル(8月4日号)の記者はイタリア南部のマフィアの拠点を訪れ、マフィア関係者とインタビューしている。それによると、「マフィア関係者は宗教的だ。人を殺し、麻薬と武器を密売することと聖母マリアの地を年に一度巡礼することはマフィア関係者にとっては何も矛盾していないのだ」という。


マフィア組織はキリスト教会と似ている点が多い。両者とも式典、規約、ルールなどに基づて運営されている。マフィアに入るためには一定のハードルを越えなければならない。洗礼を受けなければ、カトリック教徒になれないのと同じだ。マフィア関係者が組織から追放された場合、それは命の危険があるように、教会から破門されることは、一切のサクラメントを受けることができず、信者にとって死刑宣告を意味すると受け取られている。

マフィア関係者が教会から破門されるのではないか、と危機感を抱きだした直接の契機は、ローマ法王フランシスコが6月21日、イタリア南部のカラブリア地方を訪問し、そこで開かれたミサの中で「マフィアは絶対に許されない。全てマフィア関係者は破門されるべきだ」と宣言したことにある。

マフィア関係者は法王の発言にショックを受けた。なぜなら、マフィアと教会はこれまでも決して関係がなかったわけではないからだ。マフィアがバチカン銀行を不法な資金の洗浄に利用していたことは良く知られていることだ。高位聖職者と密接な関係を持つマフィア関係者も少なくない。

法王の破門宣言に対し、マフィア関係者の中には「聖職者の中にかなりの小児性愛者がいるが、彼らは教会から破門されていない」(シュピーゲル誌)と強く反発する者もいる。マフィアは強迫するだけではない。昨年夏、パレルモの検察官関係者が爆弾で殺された。イタリアのマフィアと戦っていたシチリアの神父もシチリアのマフィアに殺害されている。マフィア関係者は教会から破門宣言を受けないために、聖職者へ無言の圧力を強めてきている。

フランシスコ法王は3月21日、イタリアで過去、マフィア、Camorraによって殺害された1万5000人の犠牲者を慰霊する集会で「悔い改めるなら、まだその時間は残されている」とマフィア関係者に呼びかけ、犠牲者の遺族関係者と共に祈ったという。フランシスコ法王が昨年5月、説教の中でマフィアに対して挑戦を宣言して以来、シチリア系マフィアは法王を脅威と受け取ってきた。特に、法王がバチカン銀行の刷新に乗り出してからは、「われわれの領域に侵入する者」として敵意を抱いている。

一方、マフィアへの戦いをする神父たちはフランシスコ法王の「教会から破門せよ」という発言に勇気づけられ、これまで以上にマフィアとの戦いを積極的に進めてきている。マフィア関係者の中には、神父邸に「黙っていろ。さもなければ殺す」といった脅迫状を送っている者もいるという。

イタリアでは、ヌドランゲタ(Ndrangheta)、カモーラ、コサノストラなどの大マフィア組織が幅を利かしている。彼らは地域に密着している。マフィアグループが年間稼ぐ収益はイタリアの国民経済でもかなりの割合を占めるほどだ。その巨大な経済力を誇るマフィアとの戦いはフランシスコ法王にとって決して容易ではないだろう。マフィア側によるフランシスコ法王殺害の噂がここにきて頻繁に流れてきているのも偶然のことではない。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年8月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。