朝日新聞の最後の逃げ道

池田 信夫

細かい話だが、ついでに朝日新聞の最後の逃げ道をふさいでおこう。彼らは

 ・吉田清治の話はすべて嘘だった
 ・女子挺身隊は慰安婦と無関係

というところまでは認めたが、肝心の強制連行については「使う人によって定義に幅がある」とごまかしている。しかし吉見義明氏でさえ「日本の植民地では強制連行はなかった」と認めているので、残るのは戦地で強制連行があったのかということだ。朝日の検証記事は、次のように書く。

日本の植民地だった朝鮮や台湾では、軍の意向を受けた業者が「良い仕事がある」などとだまして多くの女性を集めることができ、軍などが組織的に人さらいのように連行した資料は見つかっていません。一方、インドネシアなど日本軍の占領下にあった地域では、軍が現地の女性を無理やり連行したことを示す資料が確認されています。

これはいわゆるスマラン事件(白馬事件)をさすが、まず問題なのは、これが強制連行なのかということだ。朴慶植のいう強制連行は(国家が強制力をもつ)徴用をさすが、朝鮮人男性には245人いたが、女性には1人もいない。

東南アジアには、もともと徴用の制度がないので、強制連行はありえない。スマラン事件は末端の兵士が起こした強姦事件で、責任者は戦犯として処罰された。これは沖縄で米兵が強姦事件を起こしたようなもので、国家責任を問うのは筋違いだ。

ところがこの事件が、河野談話に影響を与えた。石原信雄氏(当時の官房副長官)は、国会で次のように証言している。

当方の資料として直接、日本政府あるいは日本軍が強制的に募集するといったものを裏づける資料はなかったわけですけれども、彼女たちの証言から、どうも募集業者の中にその種のものがあったことは否定できない、そして、その業者に官憲等がかかわったこともまた否定できないということで、河野談話のような表現に落ちついたところでございます。

このとき韓国政府が「強制性を認めれば政治決着する」という取引を持ちかけてきたため、宮沢首相の判断で強制を認める表現を入れたという。その具体的な根拠になったのが、スマラン事件だった。このため強制連行という言葉は使わず、「官憲等が直接これに加担したこともあった」という曖昧な表現になった。

では、兵士や民間業者の「強制」はあったのか。もちろん戦地では、いくらでもあっただろう。300万人以上が死んだ太平洋戦線で、暴力や強制がなかったはずがない。特に強姦は昔から戦争につきもので、慰安所はそれを防ぐために軍が管理していたのだ。

どっちにしても、これはもともと吉田清治の「慰安婦狩り」から出てきた架空の話だ。問題はそんな歴史的トリビアではなく、嘘を32年間も訂正しないで政府に他国への謝罪を求めてきた朝日新聞の報道機関としての責任である。