独週刊誌シュピーゲル(8月11日号)によると、ドイツで2012年、精神的心理的な病のため仕事を休んだ国民の欠勤総日数は6150万日だった。2001年はその数は3360万日だったから、11年間でほぼ倍加したことになる。急増の原因として、職場のデジタル化、競争激化が挙げられていた。
当方が住むオーストリアでも精神的病、特にうつ病にかかる国民が急増、国民病といわれる。近い将来、うつ病にかかる国民は80万人になると予想されているというから大変だ。人口850万人のオーストリアで将来、10人に1人がうつ病に悩まされるという計算になるからだ。心理的・精神的病になる国民が急増すれば、国の健康保険予算への圧迫が高まり、国の健康管理体制を崩壊させる危険も出てくるといわれているほどだ。
ハンガリー系カナダ人の生理学者ハンス・セリエが1936年 「ストレス学説」を発表し、心理的、精神的ストレスが様々な病気を誘発することを明らかにした。ストレスは昔、マネージャー病といわれ、管理職の人間にみられるものだったが、社会がグローバル化され民主化されるにつれ、ストレスも民主化され、上層部から底辺の人間にまでストレスによる病が拡大してきている。
最近、亡くなった米俳優のロビン・ウイリアムさんが久しくうつ病に悩まされていたという。独連邦サッカーリーグの監督が突然、バーンアウトに陥り、前線から撤退する一方、ゴールキーパーが自殺したこともあった。当方の身近にもうつに悩まされている知人がいる。一見しただけでは普通にみえるから、外部の人間には深刻なうつ状態にあるとは分からない。
ところで、人はなぜ、うつに陥るのだろうか。うつの発病には遺伝的な気質、環境的、経済的また健康的な理由までさまざまな要因が考えられる。当方はうつの人に限りなく同情する。ひそかに鞄から薬を取り出して飲んでいた友人もいた。彼には環境のストレスとその本人の気質もあったのだろう。
人間は生まれた後、死に向かって歩みだす。ある人は速いスピードで、ある人はゆっくりと歩んでいく。釈尊は、人間の人生は4つの苦(生、老、病、死)に取り巻かれていると説明している。人生にはどうしても苦が付きまとう。
イタリア映画で第71回アカデミー賞を受賞した「人生は美しい」(監督・主演 ロベルト・ベニーニ)を観られた読者も多いだろう。当方も感動して観た一人だ。ナチス・ドイツ軍の強制収容所で死を待つユダヤ人たちの姿を描いた映画だ。死ぬまで過酷な強制労働の日々を生きるユダヤ人収容者の中でも、息子のために苦しさを明るさに変えて励ましていく父親の姿を描くことで監督は「人生は本来美しいものだ」という結論を引き出している。どのような環境下にあっても、自身の人生に意義がある、という確信を捨てず歩む人間の姿は美しく、感動を与えるものだ。
ストレスの克服やうつへの医療的治療などは専門家のアドバイスに耳を傾けていただきたい。かつて「人生は美しい」と感じた瞬間や体験があったならば、それらの記憶を大切にして生きてほしいのだ。
編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年8月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。