「金」は「安定金庫」へ --- 岡本 裕明

アゴラ

最近、金(ゴールド)の話題があまり聞かれなくなりました。まるで忘れ去られた過去の商品のようであります。理由はいつかはやってくるアメリカの利上げを見込み、金利のつかない金に魅力はないとする発想だろうと思います。その考えが主流であることは100も承知していますが、金の価値を金利だけで判断するのは片手落ちかもしれません。

このところ1300ドル前後で張り付いている相場は安定感すら醸し出しています。ウクライナやイスラエル、イラクの問題が生じ、いわゆるセーフヘイブンとしての買い支えがありましたが、相場的には過去と比べ動きはかなり鈍さを感じています。つまり、安全資産としての金としての注目度は下がっているのかもしれません。


あるいは、ワールドゴールドカウンシルは今年の第2四半期の金の実需が964トンで昨年同期の1148トンから16%下がっていることを発表されました。インドなどでの実需が下がっているうえに中国の習近平国家主席の「ぜいたく品を慎むボイス」が宝飾品などの需要を下げているのでありましょう。また、昨年は金が急落したあとで「お買い得感」から需要が膨れていたという要因もあります。

こう書けば金ってだめじゃん、ということになってしまうのですが、私はむしろこの安定感こそ、金が本来あるべき価値と思っています。

欧州の一部では実質的にマイナス金利をつけたこともありますが、景気は更に下押ししている状況でドラギ総裁は更なる対策を求められるでしょう。つまり、資金を持っていても預金利息はつかないどころか手数料などを考えれば逆ザヤになるのが当たり前になりつつあります。日本でもそれは同じで定期預金に100万円を1年間預けても金利は振込手数料数回分なのです。これは預けることでお金がもらえるという時代が終わっていることを意味し、ゴールドに金利が付かないという最大の弱点は実質的には「克服されている」と考えてもよいのです。

では資金運用者はいま、何を考えているかといえば投資、投機は別にして資金をいかに安全なところに置いておくかという金庫の「質」を問われています。例えば私が取引しているカナダのTD証券では格付けが最高位の社債しか扱いません。利回りは当然「これっぽっち」というレベルなのですが、担当者は「もしも高い利回りを求めるならグループ内にTDウォーターハウス(証券)があるのでそちらで買ってください。当社はお客様の資産を守るということを力点に置いていますからリターンを求めるところではありません」ときっぱり。

金価格だって相場だから上がれば下がることもあるだろう、と言われれば確かにそうなのですが、ここに供給側の事情があります。採掘コストは今、1100ドル台で、この数年、これ以上の改善は見込めないというぐらいの努力をしてきています。中小のマイナー(採掘会社)はM&Aを繰り返し、コスト削減にまい進していますが、多くの上場金採掘会社は赤字に転落しています。いまの相場では掘れば掘るほど赤字になるのです。よって採掘会社は掘らない、つまり、供給量を下げることで市場価格を調整します。金は投資と同時に工業製品や宝飾品など商品としての需要も多く、そのバランスの上に相場が成り立っているのです。

ですので、1年ぐらい前に金は1000ドルを割るという専門家たちの声に対して私は「ない」と断言していたのです。

資産の質を上げる、という意味では直接的な為替の影響を受けにくい金を通じた資産所有は悪くないはずです。一時、1900ドル台まで駆け上がった金の相場で投機家たちが金を儲ける素材にしてしまったことで金の質が劣化したのですが、今この相場の落ち着き具合を見ている限り金の本当の輝きを取り戻しつつあるように思っています。逆に言えば相場に期待感がないからこその価値なのかもしれません。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年8月19日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。