原電敦賀2号機の破砕帯問題、科学技術的な審議を尽くし検証せよ

GEPR

photo

奈良林直
北海道大学大学院工学研究院教授
日本保全学会会長

民主党政権の仕掛けか? 規制委の性急な審議

菅直人元首相は2013年4月30日付の北海道新聞の取材に原発再稼働について問われ、次のように語っている。「たとえ政権が代わっても、トントントンと元に戻るかといえば、戻りません。10基も20基も再稼働するなんてあり得ない。そう簡単に戻らない仕組みを民主党は残した。その象徴が原子力安全・保安院をつぶして原子力規制委員会をつくったことです」と、自信満々に回答している。


実際にすべての原発が現在(2014年9月1日時点)で停止しており、審査が進んでいるとされた九州電力川内原発でさえ、いつ稼動できるか不明のままだ。菅氏の言う通りになっている。

また、この記事で菅氏は1・「活断層と認定する」か、2・「40年問題」(建設後40年経過の原子炉の安全性検証を著しく困難にした)で多くの原発を廃炉にしていき、2030年代半ばには日本の原発をゼロにできる。3・もんじゅと再処理もやめさせることで核燃料サイクルも無くせるという趣旨の発言をしている。

筆者は、独立性を持ち、適切な運営を行う原子力の規制当局が必要と考え、その実現の主張を政府、学界などに訴えてきた。ところが2012年に設立された原子力規制委員会は、事業者や学会との対話を行わず、活断層や震源を特定しない地震動に代表される反対派の虜になったのかのような偏重した審査を行っている。この事態を憂慮している。

菅氏の発言の示すものは、現在の原子力規制委員会が、脱原発政策を推進した当時の民主党政権が残した強固な「脱原発推進組織」であることを物語っているように思える。

原電敦賀2号機の性急な審査

特に問題なのは、日本原電敦賀発電所の敷地内にある破砕帯の審査だ。これが「活断層」と認定されれば、同原発は廃炉に追い込まれる。菅氏、民主党の意向という背景があるからであろうか、規制委員会は、特に原電敦賀2号の敷地内の断層を十分な審議をしないまま「活断層」と烙印を押そうと懸命の短縮日程をたてた。原電が昨年調査報告書を提出してからのこの1年の間に1回の現地調査と2回の会合しか開いていないのに、8月27日と9月4日に2週連続会合を開くというのである。

8月11日の規制庁と事業者である原電の議事要旨が公開されている。これを見る限り、敦賀2号の議論はしばらく継続するように見える。しかし、地元の福井新聞は、8月27日の会合では、原電は参加させず有識者のみの会合を開いて方向性を議論し、9月4日の会合で評価書の修正などについての骨子案を提示すると報道している。

先の議事要旨によれば、規制庁は4日の会合では原電も交えて議論を深めていくとしている。福井新聞の記事が正しいのであれば、規制庁は端から原電と科学技術的な議論をする気はなく、速やかに活断層と結論づけた骨子案の取りまとめにかかり、島崎委員の在任中に決着させたいとの規制委員会側の意図が見える。

提出新事実を考えれば「活断層はない」

焦点となっているD-1 破砕帯は、敦賀2 号機の建設当時から調査、評価がなされ、活断層では無いとの判断から設置許可がなされている。(参考・GEPR記事『敦賀原発の活断層判定、再考が必要(上)・対話をしない原子力規制委』『(下)・行政権力の暴走』)

しかし、規制委員会は、菅直人元首相の意図を汲んだかのように新規制基準のなかに、活断層の上に原子力発電所の設置を認めない条文を入れ、科学技術的な議論を十分することなくD-1破砕帯を活断層と認定するような動きを見せている。

原電は、敦賀の敷地内破砕帯の大がかりなトレンチの調査結果から以下の科学技術的な知見を得て、これを報告書にまとめ、規制委員会に既に提出している。(注・前期記事参照)重要なのは、この報告書が、「D-1破砕帯の活動性」について、テフラ分析(火山灰の特徴からの分析)と花粉分析(花粉の種類を特定し、当時の気候から地層の堆積時期がわかる)から、D-1 破砕帯(G断層含む)は、少なくとも中期更新世以前(12~13 万年前よりもさらに古い時代)よりも最近は活動していないとしている点である。

また、「D-1 破砕帯の連続性」について複数の地質的性状から総合的に検討した結果、D-1破砕帯はG断層と一連であり、K断層とは一連ではないと結論づけている点である。すなわち、D-1 破砕帯(G断層含む)は、「将来活動する可能性のある断層等」には該当しないと結論づけ、活断層や活断層に誘導されて動く破砕帯であることを明確に否定する内容である。

これらの新知見は、評価会合においで未だ詳細な科学技術的な検討がなされていない。規制委員会はこれらの新知見を公開の場で十分に審議をし、そのうえで科学技術的な判断を下すべきだ。