転入超過トップは札幌市 ~ 自治体は転入をどう呼び込むか

高橋 亮平

自治体におけるもう1つの人口問題が「社会増減」

これからの自治体に取って最も重要な要素に人口構造の変化がある。少子高齢化の加速など自然増減による要因ももちろんだが、人口問題が自治体にとって重要になればなるほど、その問題は、自治体間での都市間競争にすらなりかねない。こうした状況の中で、みなさんは、自らが属する自治体の社会増減の実態をどれだけ把握しているだろうか。
全国の自治体における転入転出数の差から転入超過、転出超過を調べたデータがある。2013年度に最も転入超過となった自治体は、+10,088人の札幌市だった。2位は+8,729人で大阪市、3位は+8,186人で福岡市。4位以下も川崎市+6,929人、さいたま市+6,572人、世田谷区+6,063人、江東区+5,650人、横浜市+5,359人、名古屋市+5,229人、大田区+4,774人と並び、Best10に入っているのは、全てが政令都市と、東京23区の特別区の中でも人口の多い自治体だった。とくに4位の川崎市から10位の大田区までは、転入超過数自体も年々右肩上がりに伸びている。
こうした人口動態を見ていくと、現状の人口移動のトレンドや方向性が見えてくる。

ちなみに、一般市で見ると、ベスト10は、吹田市+2,708人、船橋市+2,467人、多摩市+2,125人、豊中市+1,969人、藤沢市+1,511人、武蔵野市+1,484人、名取市+1,469人、柏市+1,461人、流山市+1,392人、川越市+1,386人となる。
ただ、自治体の今後を考える際に、真剣に考えなければならないのは、言うまでもなく、こうした転入超過自治体ではなく、むしろ転出超過になっている自治体だ。
国も人口構造を問題と捉え、とくに15歳から64歳までの生産年齢人口の減少に歯止めをかけるため、外国人労働者の受け入れ、つまり移民政策の検討を行い始めている。
国レベルの問題で考えれば、生産年齢人口減少による労働力の低下に歯止めをかけるためには、現在働いていない生産年齢人口の方々を働かせなければならないからだ。
しかし、自治体の場合は、状況が少し異なる。日本全体としては、生産年齢人口の減少は止められないが、各自治体は、移民を本格的に受け入れずとも、他の自治体から生産年齢人口を集めてくるという選択肢があるからだ。


2013年転出超過ワースト3は、横須賀市、日立市、呉市

図表1: 2013年・転出超過上位10市の転出超過数推移

2013年に最も転出超過となったのは、▲1,772人となった横須賀市だった。以下、20位まで並べると、日立市▲1,485人、呉市▲1,373人、豊田市▲1,261人、長崎市▲1,244人、沼津市▲1,239人、寝屋川市▲1,192人、枚方市▲1,166人、釧路市▲1,150人、函館市▲1,123人、下関市▲1,107人、北九州市▲1,080人、青森市▲1,023人、小樽市▲921人、尼崎市▲910人、大東市▲896人、室蘭市▲888人、鳥取市▲881人、富田林市▲879人、市原市▲862人となる。
細かい分析を行った訳ではないが、転入超過ベスト3が札幌、大阪、福岡だったのに対して、転出超過ベスト20に北海道が4市、大阪府が3市、3市が福岡に近い自治体だった事には、何らかの関係性がある様にも見える。
日本全体で考える中では、とくに経済的には、都市部への集中は一つの方向性として考える事もできる。しかし一方で、地方には地方の事情があり、経済も含め地域から活性化させて行く仕組みが求められる。こうした中で、地方現場は、少なくとも自らが置かれている現状と、このままの状況が継続した際の現実をしっかりと把握し、対策を考えていく必要がある。

震災直後の2011年は、郡山市、いわき市、石巻市と被災地等が並ぶ

図表2: 2011年・転出超過上位10市の転出超過数推移

ここ数年で転出超過が大きかった自治体についても振り返ってみる。震災のあった2011年は原発の影響もあり、一般市の転出超過自治体のワースト10は、郡山市▲7,232人、いわき市▲6,194人、石巻市▲5,459人、福島市▲4,410人、南相馬市▲3,523人、市川市▲3,160人、気仙沼市▲2,375人、浦安市▲1,956人、多賀城市▲1,463人、松戸市▲1,457人と東北や福島の自治体が並ぶ。
転出超過の人数も、最新の2013年の横須賀市の▲1,772人と比較しても圧倒的に多かった事が分かる。
また、この中で、市川市、浦安市、松戸市と千葉県の自治体が並んでいる事にも注目したい。

2012年の転出超過ワースト3は、なんと市川市、郡山市、松戸市

図表3: 2012年・転出超過上位10市の転出超過数推移

翌年の2012年になると、ワースト10は2011年から約半数の市が入れ替わり、最も転出超過だった一般市が、市川市▲2,750人になる。以降、郡山市▲2,709人、松戸市▲2,190人、福島市▲1,939人、いわき市▲1,879人、浦安市▲1,584人、沼津市▲1,439人、長崎市▲1,185人、日立市▲1,174人、横須賀市▲1,173となっており、1位の市川市、3位の松戸市、6位の浦安市と上位に千葉県の自治体が並ぶ。
筆者自身、元市川市議であり、当時は、松戸市役所で政策担当官や審議監として部長職を務めていた事もあり、この人口問題の調査や分析も行っていたため、千葉県に焦点を当てて少し見てみよう。
2013年の転入超過を見ると、一般市2位だった船橋市+2,467人、8位には柏市+1,461人、9位に流山市+1,392人と千葉県内近隣市が並ぶ。
こうした自治体の転入超過の推移を見ても、2011年、2012年それぞれ、船橋市は+442人、+1,138人、柏市は▲164人、▲574人、流山市+1,358人、+721人となっている。
今回のデータでは、転入と転出の差しか出てこないが、自治体でより細かく調査を行うと、こうした近隣自治体への転出超過や震災や放射能等の影響によると思われる様なものもあったが、それ以外にも大きな構造的な問題も見えてきた。
こうした人口問題への対策は、より直接的に関わる住宅政策により対応できる問題と、行政サービスの差別化やブランド化など、新たな人口移動の流れを創る事も求められる。
各自治体議会での議論を見ていると、「他市がやっているこうした政策を我が市でも」というものが多いが、それぞれの自治体の状況の把握から行ってみるのはどうかと提案したい。
こうした状況こそ、行政はもちろん、議会、そして住民と共有しておく必要があるのではないだろうか。