日本国内の自動車販売が低迷しています。自動車各社が設定している販売目標に対して半年の時間経過での進捗率は45%程度。つまり、年間一年を通じてみれば目標を1割も下回ることになってしまいます。4-9月の総販売台数(軽含む)は昨年比2.8%減の247万3656台となり、2年連続でマイナス、これは年間500万台という数字にも届かないという事になります。
ホンダの決算見通しは売上、利益とも下方修正。その理由はアジアの不振。北米は確かにサブプライムローンが跋扈していますが、それが需要の先取りということは歴史が証明していますからこの先必ず振り戻しが来るはずです。
日本市場の場合、メディアは消費税をその主因としています。確かにそう考えれば簡単なのですが、個人的には日本人の車に対する意識が変わってしまったとした方がすっきりする気がします。
私がたまに東京に行けば家の周りにあるカーシェアリングやレンタカーの宣伝が否が応でも目につきます。個人的にカーシェアリングは好みではないので歩いて3分のガソリンスタンドに併設されたレンタカーの店に行くと半日で2800円。ガソリンを満タンにして返さなくてもガソリンスタンドですからそこでガソリンを満タンにしてもらい精算するだけです。おまけにリッター5円引き。
クルマがぼろいだろう、と言われれば確かにそうです。中古車でもかなり乗り込んだような車です。ですが、レンタカーを借りなくてはいけない理由とは公共交通機関では移動しにくい、モノを運ぶなどの理由があるものです。つまり、見てくれより実用であります。
私がバンクーバーでやっている事業にレンタカー部門があります。この中でご指名でよく出るのがレクサス。2008年型ですから確かに古いのですが、車自体が高級であり、ヘタレた感じがしないこともあり、とても人気があります。このレンタルが24時間で60ドルプラス税金。誰が利用するかというと当初はホテルの真ん前のロケーションなのでホテル客を対象にしていたのですが、最近は近所の人が圧倒的に多くなっています。いわゆるリピーターで人によってはわざわざタクシーに乗って借りに来る人もいるのです。このレンタカー部門の売り上げは前年比ほぼ倍増で推移しています。
カナダの自動車販売は好調のようですが、一方で車を持たない人が増えているのもこの5年ぐらいのトレンドであります。理由は車の維持コスト。まず、停めるところを確保するにあたり、コンドミニアムに居住の場合、駐車場はせいぜい1台分しかあてがわれません。ご承知の通り車は一人一台の北米ですが、住宅事情が一家に一台に変えつつあるのです。
二つ目に飲酒運転のかなり厳しい取り締まりであります。こういっては何ですが、昔はかなり緩かったバンクーバーも今は飲酒で仕事失うことも普通にあります(免停90日で通勤出来ない、あるいは業務ができないという理由)。更には街の中心部の駐車料金の異常さ。料金そのものはともかく、税金が33%もかかるのです。これはローカルの人も案外知らない隠れた事実であります。更にガソリン価格の高騰。今でもまだリッター140円ぐらいで原油の輸出大国カナダとしては不満であります。もう少し加えると高齢化の進んだカナダで車をあきらめる人が増え、若者も車を所有せず、普及しているカーシェアリングなどで借りる選択をしていることが挙げられましょう。
カナダにおける一部の層のクルマ離れは経済的理由と支出の論理性と考えられますが、同じことが日本でも起きているという事ではないでしょうか? 自動車会社は躍起になり若者を惹きつける車を作っています。日産に刺激されたのか、トヨタ、ホンダもスポーツカーでイメージ戦略に転じています。しかし、公共の交通機関、相乗り、カーシェアリング、格安レンタカーとくれば車庫借りて、高い維持費を負担してまで車を持つ論理性が十分ではありません。勿論、私から上の年代の人は「いつかはクラウン」で育ったわけですから車がガジェットだったわけで、そんなことはないと反論するでしょう。
ですが、ガジェットだったら今の若い人はITのガジェットの方が絶対に欲しいわけでどうしても彼女を隣に乗せる格好良い車という発想そのものが時代遅れであります。
日本の場合、もう一つは駐車しにくくなったことを上げておきます。住宅地に行けば確かにコインパーキングはありますが案外一杯なのです。路駐は勿論できません。一方、繁華街。週末のデパートに入るための駐車場の行列は時間の無駄遣いでストレスも一杯になります。
では自動運転の未来型自動車ができたらどうなるか、ですが、個人的にはますます所有しなくなるだろうと思います。必要な時にウーバーのような会社のサービスで車を呼び出し、時間になったら家の前に車が待っている、そしていらなくなったらそこで放置すれば勝手にどこかに駐車して次の客を待つようになるのでしょう。
テクノロジーの進化とは人に所有することをさせないのかもしれません。コンピューターだってクラウド化が進み、ソフトもデータもあなたのパソコンにはないのが普通になってきています。ITが作り出す人類のライフと価値観の進化が所有に対する常識も覆えすのでしょうか?もちろん、今日明日にはなりませんが、20年ぐらいのスパンで考えるとそれぐらいの大変化が起きても全然びっくりしません。
逆に言えば昨日の繁栄は明日の悲劇にもなりかねないのであります。我々は今、その変化を少しずつ感じ取っているそんな立ち位置にいるのでしょう。
今日はこのぐらいにしておきましょう。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年10月29日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。