潘基文氏の「名文」とその胸の内 --- 長谷川 良

アゴラ

国連社会人道文化委員会は昨年11月、満場一致で11月2日を「ジャーナリストへの犯罪を追及する日」(the International Day to End Impunity for Crimes against Journalists)に制定する決議を採択した。今月2日は制定されて最初の記念日だ。それを祝って、潘基文・国連事務総長は以下のメッセージを発表した。


「自由でオープンな報道は民主主義と開発の根本だ。しかし、過去10年間で700人以上のジャーナリストがその職務を履行する中で殺害されている。あるケースは国際的に知られ、別のケースでは知られないものもあった。昨年1年間だけで少なくとも17人のイラク人ジャーナリストが処刑された。世界で多くのジャーナリスト、メディア関係者が脅迫、殺人や暴力の脅威にさらされている。10件のうち9件は犯罪人は処罰されずに終わっている。その結果、犯罪人は益々いい気になっている。人々は腐敗や政治的弾圧や他の人権蹂躙について語ることを恐れ出した。これをストップしなければならない。これが国連が11月2日を記念日として制定した目的だ。われわれはジャーナリストやメディア関係者が世界至る所で安全で活動できる環境を作るために支援する国連行動計画を構築してきた。犯罪人が刑罰を受けないような状況を終わらせことで、表現の自由を深め、対話、人権を促進する社会を構築する。ニュースを報道するため命を危機に落とすようなジャーナリストを出してはならない。共にジャーナリストを支援しよう。正義のために立ち上がろう」

A free and open press is part of the bedrock of democracy and development.
Yet in the last ten years, more than 700 journalists have been killed for simply
doing their job.
Some cases have received international attention – others less so.
In the last year alone, for example, at least 17 Iraqi journalists have been
executed.
Many more journalists and media workers around the world suffer from
intimidation, death threats and violence.
Nine out of ten cases go unpunished.
As a result, criminals are emboldened.
People are scared to speak out about corruption, political repression or
other violations of human rights.
This must stop.
That is why the United Nations declared November 2nd as the International
Day to End Impunity for Crimes against Journalists.
We have a UN Action Plan to help create a safe environment for journalists and media workers everywhere.
By ending impunity, we deepen freedom of expression and bolster dialogue.
We advance human rights and strengthen societies.
No journalist anywhere should have to risk their life to report the news.
Together, let us stand up for journalists – and stand up for justice.

いつものことだが、国連事務総長のメッセージは名文だが、気になることがある。産経新聞が10月22日、ニューヨーク発の特派員記事で「国連事務局長の沈黙」という記事を掲載していた。韓国の朴槿恵大統領に対する名誉毀損で産経新聞前ソウル特派員が在宅起訴された問題について、世界のメディア関係者は一斉に「言論の自由」を蹂躙する蛮行と韓国を批判する論調を発表する一方、国際機関も韓国に言論の自由を守るように要求したが、肝心の国連事務総長はスポークスマンの代行で終始し、母国の言論蹂躙という蛮行に対してこれまで沈黙している、という趣旨だ。

その潘基文事務総長が11月2日の国際デー用の上記の名文を発表しているのだ。「ジャーナリストへの犯罪を追及する日」の趣旨と産経新聞前支局長の件は異なるが、ジャーナリストの「言論の自由」を擁護するという点では同じだ。

産経は事務総長が母国の蛮行に対して沈黙している背景について、「2016年の韓国大統領選に出馬を考えている事務総長は韓国内の評判が悪くなるのを恐れ、口を閉じている」と分析する有識者の声を紹介している。

いうまでもないことだが、国連事務総長は世界の全加盟国の代表だ。出身国の政情に影響を受けてはならない立場だ。しかし、潘基文氏は過去、機会ある度に韓国の反日運動を擁護し、日本を間接的に批判してきた前歴がある。「ジャーナリストの報道の自由」、「言論の自由」をアピールするのならば、潘基文氏には韓国の言論事情について厳しい声明文を公表するだけの一貫性と中立性を期待したい。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年10月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。