「赤穂浪士四十七士」が主君の敵である吉良上野介の屋敷に討ち入った元禄15年12月14日の戦いは「忠臣蔵」として後世に語り継がれている。討ち入りの日と重なる因縁の舞台が整い、第47回衆議院総選挙の戦いが開催される。
現在の日本景気状況は決して芳しいものではない。身近な例として近隣タワーホテル最上階では、毎月限定日に減税ジャストランチという打ち出しで、ホテルの景気刺激策が民間レベルで実施されている。社員食堂的に気軽に大盛注文も受け付け、通常提供される極上珈琲も飲み放題というサービスぶりで会社員・OL・旅行客に大盛況で景色の良い空間は賑わう。そんな街中をみればデフレ脱却気配も増税余地もない事に気付く。
景気刺激策として異次元金融緩和の追加に日銀黒田総裁が踏み切った時点で一般会社員であれば、なるほど景気悪いんだなぁ→予算高過ぎどこも売上未達かよぉ→経営会議は荒れるぜぇ等々、身近な勤務生活内の会話として、SNS内の会話として各自が論理では悟れども、メディアが景気的判断の本質を、政局的判断に変えて報道すれば、国民の多くの情緒は衆議院解散否定へと流されがちである。
7─9月期のGDP速報値は、物価変動の影響を除いた実質で前期比0.4%減、年率換算では1.6%減で、年率で7.3%減と大幅に落ち込んだ4─6月期から2四半期連続のマイナス成長となり、市場予想の年率2.1%を大幅に下回った。日本を代表する民間エコノミスト42人の平均予測は2.47%で、霞が関は最低でもプラス成長にはなると思っていただけに、サプライズに近い受け止めとなった。特に民間消費と設備投資はファンダメンタルズの弱さを反映。昨年打ち出した設備投資減税もあまり効いていないようで、現在の日本はモノづくりの場所としての魅力と価値が回帰して来てはいない。
自身のマーケティングシュミレーションでは増税前の消費税5%時である2013年3月年度末はアベノミクス効果で法人・消費増税収いずれも増えていたが、本年度は金融緩和で時価総額が増えた上場企業以外の大半の企業総利益は完全な鈍化傾向にある。山高ければ谷深しという諺があるように8%増税のリセッション継続中のさなか、来年10月に再増税すれば、売れない時の値上げと同じ消費展開となり可処分所得の実質的減算により2015年以後の景気は坂道を転げ落ちるだろう。結果、法人・消費税収いずれも大きく目減りする事で、財政再建という国家の本質的目標は達成しえなくなる。
2012年3月20日に野田内閣が提出した消費税増税法案等の法案を元に、社会保障と税の一体改革に関する修正協議を民主自民公明の三党間で合意した。民主党が軸となり前総裁達による、閉塞的ねじれ状況下での3党合意の消費税10%増税法案は、落しどころを謀った妥協の産物的サンプル法案であり、結果的に8%上げ時と10%再上げ時の精密さを欠いた。「景気条項」という付則がある意味でも完結レベルのプロダクト法案ではない。内政最重要課題である景気を大きく左右する国民生活に最も身近な消費増税をめぐり堂々解散し、今一度、国民の声を聞くのは民主主義原理そのものでもあり、今回特筆すべきは選挙結果という国民判断により増税繰延の行方が決まる事である。
財政再建につなげる間口戦略として、永田町~霞が関の手に委ねられていた増税制度の最終判断を解散によって国民の意思決定に委ね、政策と民意と間にシャトル循環がシステム構築できるならば、歴史的に政権が果たせなかった、何でも増税すれば財政再建が果たせるとする創造性を欠く政治家や官僚に向けた対応策にもなる。言い換えれば政権vs官僚のバトルだった増税マッチメイク構図を、国民vs官僚のバトルに改変し、国民の意思を背に一気呵成に景気勝負に打って出る事が出来る。
政治そして政治家の役割は、時代に先駆け時代に応じ、立法により改革を実施する事にあり、議員立法を積極推進する安倍政権は昨今にはなかった、生きたお金を使う改革型政権の姿勢がかいまみえる。これまでの歴史として閉鎖的だった政治の戦場力学構造を永田町、霞が関から全国の街中へと一挙に拡大し、増税繰延の可決あるいは否決の判断を、初めて国民に託す次期衆議院総選挙は、歴史的にも稀な戦い「忠臣蔵」同様に、国民が政治屋敷に討ち入る、大義ある戦いの日といえる。
現在のアベノミクスは、異次元金融緩和という金融側からのポリシーミックスの矢を放つ事により経済活性化を計っている。しかし無駄に筋肉を膨らませ過ぎれば、その肉体は息切れを起こしやすい。過剰な量的緩和がもたらす副作用で国民の実質賃金が下がり富裕層と一般層、大企業と中小企業の格差が拡大する。アベノミクス究極の最終矢は、従来緩和による膨張型の経済政策でなく、国家体質そのものを、美しく削がれた筋肉質に変える構造改革を行う事である。少子高齢化対策を柱とし、社会保障・税一体改革により、高齢者に偏っていた財源を勤労世代にシフトし、これから生まれる若者に、借金を背負わせる事を可能な限り避ける事である。
8%増税後に経済が急失速したのは、大半が実質賃金アップにない環境下の時期に増税し、円安も加わり可処分所得が目減りした為である。日本には個人金融資産が1500兆円、企業の内部留保金が300兆円、合わせて1800兆円もの「財産」がある。だが年代別の資産状況に変化が見られず、長寿国ゆえの高齢者から消費旺盛世代への資産のシフト化が成されていない。先延ばされる18ヶ月後の消費税10%引上げ時には、経済好循環が必達されていなければならない。それまでに現在110万円の生前贈与枠や100万円のNISA枠などを拡大し、効果的減税で消費旺盛世代にお金を使ってもらう活性策を工面し、消費市場にパラダイムシフトを起こす事が求められる。
正確無比の鋭利な矢を放つには、矢じりの先端を精微に研ぎすます必要があり、その最中の政策として、女性労働力の活用による配偶者控除廃止や年金制度改革がある。女性就労の妨げとなっている103万円や130万円の壁を打破する改革だが、本年初めは大企業を中心にベアを含む賃上に成功し、さらに下期の政労使会議でも、首相自ら来春闘での賃上を再び経営者側に迫り経済好循環をなんとしても実現させたい政権の強い意向が透けてくる。このような「成長戦略と財政再建」の相関を睨みつつ、様々な矢による日本国経済への軌道上射撃を、都市から地方まで高的中率で成功させ、段階を踏みいくつもの政策パッケージが構築できれば、日本は活力を取り戻していく。
松田 宗幸 Muneyuki Matsuda
コンサルティング/ビジネスサービス
株式会社 M ホールディングス(M HOLDINGS CO.,LTD.)代表取締役 CEO
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