(その1)でフェアユースが認められた例を紹介したが、教育目的であれば必らずフェアユースが認められるとはかぎらない。講義の資料や参考文献の抜粋を電子保存し、学生がアクセスできるようにしていたジョージア州立大学を、学術書出版社が複製権侵害で訴えたケースでは、地裁はフェアユースを認めたが、控裁で覆された。
2014年、第11控裁は、第1要素(利用の目的および性質)については、変容的な利用とはいえないが、非営利の教育機関による教育目的の利用なので、フェアユースに有利とした。第2要素(原作品の性質)については、結論は中立かフェアユースに若干不利としたが、本件においてはあまり重要な要素ではないとした。
第3要素(利用された部分の量と質)については、地裁は被告が作品全体の10%以下あるいは10章以上ある書籍については1章しか複製しない場合は、フェアユースに有利と判定した。しかし、控裁は、「電子的保存資料利用にあたっての著作権順守のための最適慣行のガイドライン」が定めた、上記の「10%あるいは1章」の業界標準はケースバイケースのフェアユース分析には馴染まないとした上で、利用が教育目的を超えて、原作品の市場に脅威を与えていないかを含めてそれぞれの複製行為ごとに個別に分析すべきであるとした。
第4要素(利用が原作品の市場に与える影響)については、被告の複製に変容性がないために原作品の市場に与える影響は深刻なので、地裁はこの要素をもっと重視すべきだとした。
以上により、フェアユースを認めた地裁判決を差し戻した。
グーグル書籍検索サービスに対する訴訟2件
直接、教育・研究分野を対象にしたサービスではないが、教育・研究目的にも貢献するサービスである点が評価されて、フェアユースが認められたケースもある。グーグルの書籍検索サービスに対する2件の訴訟である。
1. グーグルに対する訴訟
グーグルは、世界中の情報を検索可能にするという壮大なミッションを掲げて1998年に起業。ミッション実現のための第1幕だったウェブ検索に続いて、書籍検索サービスに乗り出した。出版社や図書館から書籍を提供してもらった書籍をデジタル化し、全文を検索して、ユーザーの興味にあった書籍を見つけ出す電子図書館サービスである。
Google Books とよばれるこのサービスに対して、2005年に全米著作者組合などが著作権侵害訴訟を提起した。著作権が切れていない書籍が提供された場合、検索結果は「抜粋(スニペット)表示」とよばれ、ウェブ検索と同様、検索ワードを含む数行が引用される。しかし、原告側は、そもそも図書館の書籍をスキャンすることは著作物の複製にあたるため、著作権者の許諾なしに行うことは、著作権者の持つ複製権を侵害する、と主張した。グーグルは、検索用データベース作成のために全文を複製・蓄積するが、閲覧できるようにするのは一部だけなので、フェアユースにあたると主張した。
2008年に両当事者は和解案を発表した。和解案は当初、全世界の著作権者が対象になったため、日本の出版業界にも電子書籍の黒船騒ぎが起きた。その後、対象を英国および旧英領諸国に絞ったため、日本は対象外となった。その修正和解案も裁判所が公正、適切、合理的とはいえないとして、承認しなかったため、2011年に訴訟に復帰した。2013年、ニューヨーク南部連邦地裁はグーグルのフェアユースを認める判決を下した。
判決は4要素の分析に入る前に、Google Books の効用を具体例で紹介している。教育・研究目的に関係するので以下に抜粋する。
・図書館員が図書の存在を容易に探せるようになり、館内の図書貸し出し手続を効率的になった。また、自館にない場合に図書館相互の貸し出しを利用して、どの図書館から借りるかの判断もしやすくした。研究・教育面でも重要なツールとして、学校教育の情報リテラシーのカリキュラムにも組み込まれた。
・データマイニングやテキストマイニングにも役立っている。具体例をあげると、合衆国という言葉が“the United States is”というように単数で使われるのか、“the United States are”というように複数で使われるのかを、数千万冊に上るGoogle Books のデジタル書籍の使用例から検証することが可能になった。
・これまで書籍にアクセスし難くかった視覚障害者も、書籍を検索して、音声変換ソフトなどを使って読めるようになるなどアクセスしやすくなった。
・絶版となって図書館の書庫に埋もれていた書籍を保存し、蘇らせた。
・研究者だけでなく、素人でも研究専門図書館のアーカイブに埋もれた蔵書を探し出せるようになった。
第1要素(利用の目的および性質)については、書籍をデジタル化して検索可能にして、抜粋表示すること データマイニングやテキストマイニングなど書籍の新しい使われ方を創造することから変容的利用であるとした。グーグルは書籍検索サービスによって、ウェブ検索サービスのユーザーも増え商業的に利益を得ているが、上記のような重要な教育目的を果たしていることも考慮すべきである点も指摘。第1要素は圧倒的にフェアユースに有利であるとした。
第2要素(原作品の性質)については、書籍が公表ずみであることなどからフェアユースに有利であるとした。第3要素(使用された部分の量と質)については、全文複製はフェアユースに不利だが、全文検索には全文複製が必要なので、若干不利にすぎないとした。
第4要素(利用が原作品の市場に与える影響)については、Google Books で探している本が見つかれば購入につながる つまり、市場を奪うどころか逆に開拓することから、圧倒的にフェアユースに有利とした。
以上、第3要素以外はフェアユースに有利なので、総合判定でフェアユースが認められた。
城所岩生(米国弁護士)