2015年2月18日のアーカイブ記事。自民党総裁選挙で河野太郎氏が核燃料サイクルの廃止を打ち出し、岸田文雄氏が存続を主張したので、これが争点の一つになりそうです。
経産省は高レベル核廃棄物の最終処分に関する作業部会で、使用ずみ核燃料を再処理せずに地中に埋める直接処分の調査研究を開始することを決めた。これは今までの「全量再処理」の方針を変更する一歩前進である。
核廃棄物の処理は、技術的には「枯れた」分野である。その毒性も管理方法もコスト評価も、世界的にほぼ定まっている。本書はその標準的な成果を、プリンストン大学のフォン・ヒッペルを中心とするチームがまとめたものだ。日本についての英文版は公開されている。その結論を引用しよう:
- プルトニウムは核兵器物質である。使用ずみ核燃料の中にあるプルトニウムは実質的にアクセス不能だが、分離ずみプルトニウムは、核テロリストにとって魅力的なターゲットになる。日本が毎年分離することを計画している8トンのプルトニウムは、長崎型原発1000発分をつくるのに十分な量である。
- 核燃料サイクルは経済的に意味がない。非在来型を含めたウランの埋蔵量は数百年分あり、再処理で節約する必要がない。再処理で節約できる効果は25%程度で、ウラン濃縮技術を高度化すれば実現できる。
- 再処理のバックエンドコストは直接処分に比べて2倍だが、それに見合う経済的利益がない。高速増殖炉は技術的に困難で、経済的に成り立たない。MOX燃料をつくるコストは高く、プルトニウムを無料でもらっても引き合わない。各発電所のサイト内に空冷式のキャスクを置き、乾式貯蔵すれば半永久的に保管できる。
- 最終処分場は存在する。六ヶ所村に乾式貯蔵施設を設置し、各地の原発の核燃料プールの廃棄物を受け入れればよい。最終的には地層処分も六ヶ所村で可能だが、その検討は数十年先で十分だ。
- 残るのは、政治的課題である。「核廃棄物を50年以上は置かない」という国と青森県との協定を改正し、最終処分場として位置づける必要がある。県もすでに核燃料税の対象を「再処理される燃料」から「貯蔵される燃料」に切り替えている。
- 処理コストは最終的に電力会社が負担するので、彼らも直接処分に切り替えたほうが負担が小さくてすむ。再処理をやめると、国の「再処理等積立金」による融資が受けられなくなるが、これは目的を変更して直接処分を含めればよい。
これは役所も電力会社も含めて、関係者のほぼ一致した認識だろう。1980年代まではフランスのように核燃料サイクルを積極的に進めた国もあったが、現在では核兵器をもたないのに再処理を進めているのは日本だけだ。アメリカは余ったプルトニウムに懸念を示し、全量再処理の方針を転換するよう求めてきた。
技術的な解決策も明らかなので、残るのは「ここまで再処理工場をつくってきたのにもったいない」というサンクコストの錯覚だが、今までかかった3兆円近いコストや処理技術のかなりの部分は最終処分場に転用できる。問題は再処理で節約できる未来のキャッシュフローである。
今後、無理して大量のプルトニウムを作り続けることによる損失(直接処分と比べたマイナスのキャッシュフロー)は、本書の推定では8兆円を超える。この展望のない事業に多くの原子力技術者をロックインしてしまう損失も大きい。この撤退の判断は、首相にしかできない。
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