欧州内の飛行機便は安全だ、と久しく信じられてきたが、24日のドイツ機の墜落事故はその伝説を無残にも消し去ってしまった。スペイン・バルセロナ発ドイツ・デュッセルドルフ行きのドイツのジャーマンウィングス機(エアバスA320、乗客144人、乗員6人)がフランス南東部のアルプス山中に墜落したのだ。
事故の発生を最初に知ったのは“偶然”にも独週刊誌シュピーゲル電子版を読んでいた時だ。なぜ、“偶然”かといえば、シュピーゲル最新号(3月21日号)によれば、昨年11月5日、危うく墜落の危機に直面した飛行機の話が掲載されていたからだ。その状況は今回の事故とかなり酷似しているのだ。そのタイトルはなんと「墜落にプログラムされていた」(Auf Absturz programmiert)というのだ。
独メディアによれば、事故の原因はドイツ機が急に降下を始めたことだ。降下開始8分後、機体はフランスのアルプス山中に墜落した。ちょうど同じことがドイツのルフトハンザ機( LH1829、エアバスA321、乗客109人)に発生しているのだ(ジャーマンウィング社はルフトハンザ・グループの傘下)。シュピーゲル誌のその記事を読んで、「あれ、今回の事故のことではないか」と錯覚を覚えたほどだった。
同記事の概要を紹介する。昨年11月5日、ルフトハンザ機が今回と同じようにスペインの Bilbao発でドイツのミュンヘンに向かっていた。離陸して約15分後、飛行機は上空9500メートルから突然降下を始めた。毎分1000メートルの速さでどんどん下がっていく。パイロットは慌てて飛行機を再度上昇させるためにフライト・ジョイスティック(操縦桿)を後ろに引いたが、機体は反応しない。飛行機はパイロットの意向を無視して降下を続けている。シュピーゲル記者は、「飛行機はコクピットのパイロットの手を離れ、さらに強い力、人間の命令に従わないコンピューターによって操縦されている」とドラマチックに記述している。
幸い、パイロットは最後の手段としてコンピューターのスイッチを切り、手動操縦に切り替え、飛行機を上昇させることに成功したというのだ。危機一髪だったという。飛行機は何もなかったように無事にミュンヘンに到着した。
シュピーゲル誌によると、飛行中の迎角を測量するため飛行機外板に設置されたセンサー(3本)のうち2本が凍り、正常だったセンサーが出すデーターをコンピューターが無視した結果、飛行機は急降下したのではないかと受け取られている。チェコのプラハで4月、航空会社の専門家会議が開催され、そこで11月のエアバスの件について協議されることになっている。
11月と同様、今回の事故は、「なぜ、コンピューターが勝手に降下飛行を始めたのか」が焦点だ。間違った情報をコンピューターに入力したのか、など、さまざまなシナリオが考えられる、ちなみに、事故機を操縦していたパイロットは10年勤務、飛行時間6000時間のベテランだ。パイロットのミスの可能性は考えにくいという。
航空会社、飛行機のタイプ、離陸後想定外の降下飛行など、11月と今回の事故には酷似した点が少なくない。幸い、昨年はパイロットの機転で事故を回避できたが、今回は防ぐことが出来なかった。ブラックボックスが回収されたから、事故の状況が今後、さらに分かるだろう。
パイロットは昔、手動操縦で飛行した。コンピューターが導入された後は手動操縦からコンピューター主導の自動操縦に依存するケースが増えていった。ただし、昨年11月の場合をみても、コンピューター任せの自動操縦に問題が生じた時、パイロットの迅速な対応が不可欠となるわけだ。
今回、犠牲となられた150人の乗客、乗組員には哀悼の意を表したい。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2015年3月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。