イエレンFRB議長が27日講演で「米経済の回復が続けば、今年後半にかけて利上げが適切になり得る」と述べたことにはやや意外感がありました。ハト派の議長がある意味、楽観的とも取れる発言をするのはめったにないからでありましょう。
ただ、講演内容をよく考える限り、一つのヒントを与えてくれています。それは、「金融状況や経済全体にとって重要なのは、短期金利がたどると予想される軌道の全体像であり、最初の利上げの具体的なタイミングではない」という発言です。たった一回の9年ぶりの利上げという記念すべき行事よりもその利上げをきっかけにどのような金利の軌跡を描くか、中期的な展望を描いている点において、間違いなくテイクオフし、ある程度のベクトルの安定感を模索しているようです。
また近づくであろう利上げが「近年の他のサイクルとは異なるものになる」としている点で市場が予想していないやり方があることを示唆しています。私は何度か書かせていただいたように利上げ幅がかつての0.25%という幅から0.125%や0.1%といった小さな刻みをゆっくりと踏んでいくとみています。しかしながら、それはアメリカ経済が一定の周期性のある好景気をこれから長く謳歌する前提であるとも言えます。これは経済成長の振幅がより小さく、そして時として短いサイクルとなる中、達成可能なのかやや懐疑的であります。
ニューヨーク株式市場。3月2日のダウ最高値以降、冴えない展開でチャートを見る限り、上値をブレイクできず、下値を模索する展開になっています。株式市場が景気の先読みの代表的指標と言われる点を考えるならば今後、明らかに不都合な材料が多く積みあがりそうです。
アメリカの1-3月第1四半期のGDPは天候の悪化を始め、リテール、不動産、耐久消費財を含めた各種経済指標が冴えないことで予想を下方修正する専門家が増えています。また、4月中旬からスタートする第1四半期の企業決算もやや重い雲が想定されています。
株式市場が実態経済に対して半年程度の先行指標であるとすれば9月という正に市場が最も期待する利上げタイミングに重なりますが、その時に経済のベクトルが下向きであれば議長自らが指摘してた通り、その時の経済指標次第ではその期待は先送りの公算も有り得ます。
経済全体としては心地よい暖かさですが、金利引き上げという上着を取るほどの陽気となるかはまだ予断を許しません。原油は確かに中東の不安もあり、上昇の可能性がありますが、かつての100ドルの水準を再び記録することは当面ないとすればシェールオイルのブーム再来は一旦は遠のいたでしょう。
また、震災以降日本の液化LNGに対する需要が市場価格を大きく押し上げてきたもののもはや、スポットでは6-7ドル台まで下がり、アメリカ、カナダでのLNG輸出施設開発に関する盛り上がりはすっかり冷めました。ここBC州でも州北部のアジア向けLNG輸出基地完成後のBC州の税収増期待に対して「捕らぬ狸の皮算用」と批判が出ているのは政府想定市場価格が実態と乖離してしまったからであります。
日本が世界の先陣を切って低金利時代に突入し、その試行錯誤ぶりに欧米各国は日本の二の舞を踏まないと強気発言を繰り返しました。確かに今思えば日銀のお手付きや失策がなかったとは言いませんが、経済の全体の流れからすると低金利時代に突入せざるを得ない「性」があったことを見落としてはいけません。それは住宅ブームの崩壊の経済的インパクトは財布のみならずメンタリティをも変えるという事であります。アメリカで今、持ち家比率が下がっているのも持てないのではなく、持たない主義も増えてきたという社会の変化にもう少し注目すべきでしょう。
世界経済の成長率が低迷する中、アメリカだけが気を吐いてきたと言われていますが、アメリカが世界経済をけん引するのか、アメリカは他の経済低迷する諸国に引っ張られるのか、その綱引きの真っただ中にいるのが2015年であるように思えます。
今日はこのぐらいにしておきましょう。
岡本裕明 ブログ 外から見る日本 見られる日本人 3月30日付より