投資銀行業と投資運用業

森本 紀行

投資銀行の機能というのは、企業の資金調達を支援することだが、その名前にも痕跡をとどめるように、本来は、投資の金融機能と深い関連をもつ。


企業の資金調達支援としての投資銀行業は、二段階に分かれる。第一が、その企業の事業構造に照らして、最適な資本構成(キャピタルストラクチャ)を設計することである。例えば、収益化までに時間のかかりそうな案件では、株式のような時間制約のないものを厚くするなどの判断である。

第二が、実際に、株式や社債の新規発行などの具体的な資金調達手段を組成して、そこに投資家の資金を引き込むことである。いうまでもないが、資金調達は投資家の資金と出会って初めて意味を成すのだから、この投資家への働きかけが決定的に重要になる。

資本市場の参加者には、個人や自己勘定資金を運用する機関投資家など、最終的な投資家も多いが、投資家の代理人として運用を委託された投資運用業者も多い。資金調達側を代理している投資銀行に対して、資金運用側を代理している投資運用業者が対峙する場、それが資本市場だ。

公開資本市場を通じる場合は、広範囲の不特定多数の投資家から資金調達するのだから、投資銀行は一つの大きな資金調達装置のようなものになる。特に、今日のグローバル化した資本市場では、その装置は全世界を網羅するものにならなければならない。ここに、これまで一貫して進んできた投資銀行の巨大化の背景がある。

プライベートな関係性を通じて資金を調達する場合には、投資銀行の巨大な装置を必要としない。また、調達と運用の分化自体も必要ではない。例えば、プライベートエクイティを通じた資金調達を考えてみよれば、すぐにわかる。

プライベートエクイティの場合は、投資家の資金が先に集積されている。だから、資金を集める必要がなく、投資銀行を介する必要もない。しかも、重要なことは、資本構成を設計するという投資銀行の機能もまた、プライベートエクイティの運用者のほうへ移転していることだ。ここに、投資銀行業と投資運用業が分解する以前の姿、企業金融の本来の一体性がある。

では、プライベートエクイティを通じて、金融機能を統合することの利点は、投資銀行を使って公開市場を経由する場合と比較して、どこにあるのか。時間と費用である。公開資本市場での調達に対し、プライベートな関係性のなかでの調達は、当事者が合意すればいいだけのことだから、時間が早く、費用が安いのである。

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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