都構想6:藤井はん、「ダメよ~ダメダメ」しか言えへんの?

北村 隆司

普通は他人から尊敬の念を持って呼ばれる「学者」「専門家」等の敬称を、藤井先生は自ら名乗る不思議な習性をお持ちです。

この習性は藤井先生の教養の無さのなせる業だと思い、これまで触れることを避けて来ましたが、よく観察しますと、自分の主張の弱点を隠す為のしたたかな計算(自説強靭化計画?)である事が判って来ました。


例えば、「学者」とか「専門家」の権威を信頼して「大阪都構想:知っていてほしい7つの事実」を無防備で読みますと、あたかも「7つの事実」が存在するように思いがちですが、これが藤井先生の狙いであり、問題なのです。

自然科学分野での事実は「再現性」を伴う事が絶対の条件ですが、政治の社会にはその様な事実は存在しません。

政治は「理想」と言う終着点の無い目標に向かっての永遠の道程ですから、「事実」があるとしても「過ぎ去ったエピソード」くらいの物で、そんな物は、未来志向の「政策」には、参考程度の意味しかありません。

藤井先生のプレゼンでは「7つの事実」とありますが、「事実」とは、現実に存在する客観的で証明可能な事柄を指すのに対し、「真実」はカルトや信仰宗教の指導者が便利に使う「人間の主観に基づき導いた結論」を指し「事実」とは似て非なるものです。処が、先生のプレゼンでは、「事実」と「真実」との混同は勿論、「意見」や「憶測」までも事実であるかのように主張されますので、注意を怠れません。

これが「意識的」な誘導であれば、一種の詐欺、詐称であり、無意識な混同であれば「学者」「専門家」を称する資格はありません。

そのような訳で、藤井先生の言われる「事実」に注意しながら「大阪都構想:知っていてほしい7つの事実」を読み、そのコメントを項目毎に纏めてみましたので、ご批判下さい。

【事実0】今回の住民投票の対象は「大阪市民」。それ以外の「大阪府民」は対象でありません。
コメント:ご親切なご注意有難う御座います。因みに、「都構想」とは言っても「東京都民」は対象ではない事も「都民」に周知しておいて下さい。また、「事実0」と言うユニークな表現は、さすが想像力に優れた藤井先生だけあると感心しました。「0」と言う数字を先頭に持ってきた理由が、「7つの事実」に0を掛け合わせ(0X7=0)で、「7つの事実は存在しない」と言う意味であれば、納得です。

【事実1】今回の住民投票で決まっても,「大阪都」にならず「大阪府」のまま。
コメント:これを知らないとしたら「子供」さんだけでしょうから、このビラは「幼稚園」にも配っておいて下さい。

【事実2】今の「都構想」は、大阪市を五つの特別区に分割する「大阪市五分割」の構想です。
コメント:それで?

【事実3】大阪市民は、年間2200億円分の「おカネ」と「権限」を失います。
コメント:これは「事実」ですか、それとも先生の「憶測」でしょうか?

【事実4】2200億円が様々に「流用」され、大阪市民への行政サービスが低下するのは決定的。
コメント:「流用」とか「決定的」と言う言葉は「主観的表現」ですので、「事実」を表すには相応しくありません。「事実」と「憶測」を混同されていませんか? 又、政治の世界で「将来的見通し」はあっても、「将来的事実」が存在するとは思えませんが、どの行政サービスがどのくらい低下するのか? その根拠と共に「具体的」にお示し下さい。
尚、都構想が実現すると「市民の金」が市民以外の大阪府民に流用されるという事実(正確には実ではなく批判)があるとすると、地方交付金を受けていない東京都民などから、「大阪(府や市だけでなく、大阪の全ての基礎自治体の住民が対象)への巨額な地方交付金は、都民の金の流用だ」と言う抗議が出ても抗弁出来なくなりますが、その点も大阪市民に伝えておくべきではないでしょうか? 尚、都民から抗議を受けた場合の先生の合理的な反論を、一般的レクチャーではなく、手短に、具体的にお示し下さい。

【事実5】特別区の人口比は東京7割,大阪3割。だから大阪には東京のような「大都市行政」は困難。
コメント:これは「事実」ですか、それとも藤井先生の「ご意見」でしょうか? 又、大阪都構想のどこに、「東京のような『大都市行政』を行なう」と書いてあるのでしょうか?

【事実6】東京23区には「特別区はダメ。市にして欲しい」という大阪と逆の議論があります。
コメント:民主社会の日本では議論は無数にあり、その中から「自分の好む議論」を一つピックアップして「(特別区は駄目と言う)事実」と断ずる事は、いくら「議論のマジシャン」の藤井先生でも酷すぎます。

【事実7】東京の繁栄は「都」の仕組みのおかげでなく,「一極集中」の賜(たまもの)です。
コメント:これは事実ですか? それとも憶測でしょうか? もし、これが事実なら「地方分権」の進んだ北米や欧州が日本より繁栄している理由を、「専門家」の立場から「客観的」で「具体的にわかりやすく教えて下さい。
因みに、全体主義国家の殆んどは「一極集中国家」で、権力者の恣意判断で動かす「行政区」があるのは大阪と同じですが、民意が支配する「独立区」は実質的に存在していません。ひょっとすると藤井先生は「全体主義国家」の方が「繁栄」すると信じておられるのでしょうか?

以上、藤井先生の「大阪都構想:知っていてほしい7つの事実」を読了して驚いた事は、決め付けはあっても、合理的な思考が欠如している事でした。

同じ京都大学教授でも、ノーベル賞を受賞された山中教授などの碩学は、大問題を解決する糸口を発見されたから尊敬されているのであり、山中教授が「今の細胞治療は『ダメよ~ダメダメ』」と決め付けるだけであれば、誰からも相手にされなかったでしょう。

学者として「批判的思考」を持つ事は重要ですが「我々専門家からみれば、何度も申し上げるように、都構想など『論外中の論外』な代物だからです」と断定して憚らない藤井先生の不遜なコメントは、批判の範疇には入らず、寧ろ「いちゃもん」に近いものです。

このように対案の無い論議は時間の無駄ですが、5月の住民投票は、藤井教授の「ダメよ~ダメダメ」説を信じて大阪市の現状を維持して、結果として高給取りの市議の生活を保証するか、大阪都構想を支持して大阪市の未来を目指した「改革」と言う茨の道を選択するかの二者択一を迫られると言う「貧しい選択」に直面する大阪市民には同情を禁じえません。

注:藤井聡京大教授の「大阪都構想を考える-シリーズ8」や「新幹線とナショナリズム」も拝見しましたが、その内容は「正直ひどい」の一言です。その酷さは、世界の都市の人口比較データの読み方一つ取り上げても、各国の統治形態(都市計画を含む)の差や、欧米の人口動態が日本とは異なり、「旧都市」から郊外を含めたメトロポリタン地域に移動している事も考慮に入れないで「欧米の大都市の人口は減少している」と結論つけたり、「ナショナリズム」と言う「情緒」に頼って「新幹線」への依存を強化すればする程、無防備な沿岸地帯がテロ攻撃にあったら、日本は即死状態になる事も全く考慮していない「純ドメベース」の比較で、この事を英語ではApple to Orange(それ比べて意味あるの?)と言って馬鹿にしています。兎に角「正直ひどい」と言うのが私の感想で、こんな事にお金や時間を使うなら、「世界経済のネタ帳」 ecodb.net/ を検索した方が遙かに有意義です。
それにしても、これだけレベルの低い「学者」の価値と言えば、「日本の恥じ無形文化遺産」としてユネスコに登録する事くらいでしょう。日本には「論議」が少なすぎますので「異論」は大歓迎ですが、藤井先生のような劣化の激しい「有識者?」が注目されるのは、「マスコミ」の劣化とシンクロしているからでしょうか?

2015年4月18日
北村 隆司