容疑者の3人に1人は外国人? --- 長谷川 良

オーストリアのメディアが13日報じたところによると、同国の昨年の犯罪容疑者数は25万5815人だったが、そのうち8万9594人はオーストリア人ではなかった。すなわち、容疑者の3人に1人は外国人だったのだ。同国のヨハナ・ミクルライトナー内相が同国野党「自由党」の質問に答えたものだ。


外国人容疑者の出身国をみると、トップはルーマニアでその数は1万269人だ。以下、ドイツ9260人、セルビア9065人、トルコ7217人、ボスニア・ヘルツェゴビナ5985人、ハンガリー4366人、スロバキア3616人、ロシア3111人、ポーランド3100人、そしてクロアチア2496人の順となっている。

オーストリアは特別州の首都ウィーン市を含むと9州から構成されているが、外国人の犯罪件数が最も多いのは音楽の都ウィーン市でその容疑者数は3万5880人だ。次は二―ダーエステライヒ州1万519人、チロル州1万434人と続く。

犯罪別にみると、最も多い外国人犯罪は身体侵害で3万7578件、次に窃盗3万7025件、麻薬密売2万364件、詐欺2万331件だ。外国人が関与した殺人も108件という。

以下は犯罪統計とは直接関係がない。

アルプスの小国オーストリアでは、地理的に近いバルカン諸国出身の外国人が多いが、ここにきてイラン、イラク、アフガニスタンといった地域出身者も増えた。外国人率20%を超えるスイスほどではないが、オーストリアにも外国人居住者が年々増えている。

当方の周辺にもトルコ人、イラン人、セルビア人、アフガニスタン人など外国人が多く、様々な言語が飛び交っている。標準ドイツ語を学びたければ、ドイツ放送でニュースを聞く以外にないほどだ。

当方が約35年前、初めてオーストリア入りした時、外国人と呼ばれる存在は珍しかった。だから、市内を歩いていたら、オーストリア人から好奇心の目で見られたものだ。通り過ぎても振り返って見る市民もいた。それほど、外国人はめずらしい存在だったのだ。市内でアフリカ系黒人に出会うことも当時、なかった。現在、ナイジェリア人、スーダン人、エジプト人、アルジェリア人など北アフリカ・中東出身の外国人が市内に溢れている。

冬の朝を思い出す。路面電車に乗った時、オーストリア人の乗客は一人の老人だけで、あとの乗客は外国人らしき人々だけだった。オーストリア人の老人は周囲を見渡しながら、驚くというより、自分は果たしてどこに住んでいるのか、と考え込むような顔をして座っていたのを鮮明に覚えている。

外国人といっても、当方を含むアジア系外国人は外観から見ても外国人と直ぐわかるが、セルビア人やクロアチア人となれば、オーストリア人と外観上はほとんど変わらない。ちなみに、ロシアやウクライナ人などスラブ系出身者の場合、オーストリア人とは外観上違いがある。

ところで、人生の半分以上をオーストリアに住んで居ると、「自分は外国人だ」という意識が否応なく強くなる。だから、久方ぶりに、日本に帰ると、外見上では外国人ではない自分を発見して少々戸惑う。日本に帰れば、もはや外国人ではなく、一人の国民だが、長い間、外国人意識で生活してきたこともあって、帰国しても直ぐに国民意識に戻れないのだ。

「外国人」という言葉には、異邦人、デアスポーラといった詩的な響きは少なく、政治的、社会的、経済的な響きが強い。だから、「条件と交渉によってはその出自も変えられます」といった商人のような立場だ。

先の「犯罪容疑者の3人に1人は外国人」といったニュースを読むと、オーストリア社会に完全に溶け込めない「外国人」という地位の寂しさと不安定さを感じてしまうのだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2015年4月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。