日経新聞によると、安倍首相は財政健全化目標を放棄し、プライマリーバランスの赤字をGDP比1%にするという「中間目標」を設けて、「成長によって財政を健全化する」という希望的観測を目標にするらしい。もう国債の膨張は止まらない。戦時経済まっしぐらである。
これは岩本康志氏のブログで紹介された政府債務のGDP比だが、最悪の1944年でも204%だった。このままでは今後の政府債務は230%以上に膨張するが、これは平時としては世界史上最大だ。しかし今は戦時中と同じように日銀が実質的に国債を引き受けているので、当面は財政は回る。笠信太郎は、これを潜在的インフレーションと呼んだ。
すでに200億[円]の累積を見、さらに累増の一途をたどる国債の問題を放置しておいて、如上の政策だけで国民経済を強化し、これを国防的にも揺ぎない体制へと導くことは到底出来ないのである。言葉をかえていうと、インフレーションは今日まで潜在的な形で発展して来たのであるが、これを潜在せるまま解消せしめてしまうのが、今後の重大な対策とならねばならぬのである。(『日本経済の再編成』p.104、強調は原文)
これを「最終解決」する手段として、彼は物価や配当などの全面的な統制を提案した。今後の日本も、おそらく何らかの形の統制経済が避けられない。潜在成長率マイナスになる日本経済で名目成長率によってPBを均衡させるには、5%以上の「顕在的インフレーション」が必要だが、これをコントロールすることは困難だ。
それはインフレ目標では抑制できないハイパーインフレであり、始まると5%では止まらない。Sargentのようにハイパーインフレを「財政的現象」と定義すると、それは本質的には財政の崩壊であり、政府債務の清算なしには解決できないからだ。
そして日本も、そういう形で解決したのである。同じく岩本氏のブログから借りると、戦後1950年までに物価は5倍を超え、政府債務は実質的に消滅した。戦時国債は償還されたが、紙切れ同然になり、償還財源として富裕層には最大90%の「財産税」が課され、資産が没収された。
軍部はこの問題を「東亜新秩序」によるアジア諸国からの収奪で解決しようとしたが、その結果は誰もが知っている通りである。この戦時経済を指揮したのは岸信介だったが、彼の孫にはそこまでの剛腕はよくも悪くもない。経済的な「焼け跡」になるのは、そう遠くないだろう。