伊勢雅臣氏が、メルマガ「国際派日本人養成講座」で月尾嘉男・東京大学名誉教授の著書「日本が世界地図から消滅しないための戦略」(致知出版社)を取り上げている。
孫引きの形で、その内容の一部を紹介すると、月尾氏は古代海洋国家カルタゴが滅亡した要因を3つに分けて分析している。
その第1は傭兵依存だ。海軍は自国民中心で構成していたが、陸軍は大半が傭兵だった。金を目的にした傭兵はカルタゴのために命をかける気はない。これに対して、カルタゴを滅亡させたローマは当時共和国であり、市民は祖国のために、子孫のために、命をかけて戦うことを名誉と考えていた。この決定的な差が明暗を分けた。
第2は経済市場主義。カルタゴは経済優先、富の獲得に血道を上げ、政治的、文化的、倫理的な進歩をめざす努力をしなかった。青少年に防衛のため、国家のために尽くすことの重要性を説く教育もおろそかにしていた。
第3は、ローマの敵意に対する鈍感さ。並外れた経済力を持つカルタゴに対し、ローマは敵意を持っていたが、カルタゴはそれに気付かず、ために防衛の備えを怠っていた。
カルタゴの国情は、現在の日本と二重写しである。米国という軍事大国に依存して独自の防衛網を築く努力が弱い。自衛隊を保持しているが、その強化には消極的だ。集団的自衛権の行使は「戦争に巻き込まれる」危険が高いと反対する有権者が過半数を占める。
自衛隊も自分のもの、自分たちと密接にかかわる存在として考えるよりも、自分たちとは関係ないとする日本人が多い。つまり自衛隊も米軍同様、傭兵的なのだ。
また、できれば無くした方がいいと考える人々(憲法9条を守る会など)が根強く存在する。
これは、経済市場主義の考え方と裏腹で、青少年に安全保障や防衛の重要性を説く教育は希薄である。そして、中国や韓国に対しては「過去の歴史を反省、謝罪し、友好第一で臨むことが正しい。そうすれば、平和が築ける」と甘く考え、彼らの敵意に対し鈍感である。
月尾氏はカルタゴのほか、ベネチアやオランダの衰亡の背景も研究し、日本が世界地図から消滅しない戦略を説いている。
その基本は祖国愛を蘇らせ、自国は自分で守る気概を国民の間に醸成することしかない。
安保法制の整備を急ぐ安倍首相に一貫しているのは、その気持ちだろう。
それは、第2次安倍内閣発足後の2013年2月の施政方針演説の冒頭に表れている。
「強い日本」。それを創るのは、他のだれでもありません。私たち自身です。「一身独立して一国独立する」。私たち自身が、誰かに寄り掛かる心を捨て、それぞれの持ち場で、自ら運命を切り拓こうという意志を持たない限り、私たちの未来は開けません
安倍政治にはいろいろ批判があるが(私も経済政策――アベノミクスには不満がある)が、中国や北朝鮮の脅威が強まる中で、独立心の重要性を説く姿勢には共感するし、安堵感を覚える。「世界地図から日本が消滅しない」ためには何が必要か、よくわかっていると思えるのだ。
編集部より:この記事は井本省吾氏のブログ「鎌倉橋残日録 ~ 井本省吾のOB記者日誌」2015年6月3日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった井本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は鎌倉橋残日録 ~ 井本省吾のOB記者日誌をご覧ください。