「18歳選挙権」が衆議院本会議で可決

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6月17日、参議院本会議での歴史的瞬間に向けて

先月末になって、急遽、「18歳選挙権」の審議が再び動き始めた。与野党8党合意の中で定められた「2016年夏の参議院議員選挙」から18歳以上の投票を可能とするためには、今月中旬までには法案を成立させなければならないからだ。
こうした中、6月4日、衆議院本会議で、この「18歳選挙権法案」とも言える公職選挙法等改正案が可決した。参議院での委員会審議も始まり、来週6月15日に委員会採決、17日には参議院本会議で成立、「18歳選挙権」がついに実現する見込みだ。
私が代表理事を務めるNPO法人Rightsでは、この法案成立の歴史的瞬間を共に傍聴する若者を募集している。若者が自ら法案改正を求め、実際にその法案が成立する。これは憲政史上でも初の出来事ではないかと思う。是非、幅広い若者に参加してもらいたい。
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実質3日間となった衆議院の「政治倫理の確立及び公職選挙法改正に関する特別委員会」での審議に、5月29日、参考人として呼ばれ、意見陳述と国会議員からの質疑に対する答弁を行ってきた。
専門家としての私の意見は、「18歳選挙権」の実現は、若者参画の大きな1歩であり、これをキッカケにさらに矢継ぎ早に、若者参画促進に向けた二の矢、三の矢を放ち、5年後の2020年には、世界に誇れるような若者参画モデル国を目指せ、ということだ。
参考人として陳述した意見は、大きく2点であり、1つは、今回の18歳選挙権を若者参画のゴールとせずに、被選挙権年齢の引き下げなど、さらなる仕組みづくりを進めていくこと。もう一つは、若者の政治的教養を高めていくためにも、政治教育の充実を図る必要があり、そのための環境整備として、政治的中立性の見直しを行うこと、具体的な政治教育プログラムとして生徒会活動を見直すことだった。


ここまで積極的になった若者参画に関する国会での議論

今国会における「18歳選挙権」を踏まえた審議の中でも、とくに提案者である与野党国会議員の答弁では、単に選挙権年齢を2歳引き下げるということではなく、今後さらに若者を積極的に政治参画させていこうという前向きな発言が目立った。
私は大学時代の2000年に同世代の同志とともにNPO法人Rightsを立ち上げ、「選挙権年齢の引き下げ」と「政治教育の充実」を2本柱に、若者の政治参画の促進を訴え始めた。当時は選挙権年齢の引き下げといっても、同世代ですら「大学生が法改正なんてありえない」「選挙権年齢の引き下げなんて必要?」などと言われた。ましてや政権与党の自民党がこうした要望に共感してくれる予兆などほとんどなかった。
あれから15年、与野党の国会議員が前向きに若者の政治参画を求める姿を見て、国会での議論はここまで進化したのかと感動すら覚えた。
一つ目は、若者の政治参画の必要性についだ。
6月2日、衆議院の特別委員会」で、法案提出者であり与野党8党によるプロジェクトチーム(以下PT)の座長でもある船田元氏(自民党衆議院議員)が答弁した。その内容は、選挙権年齢の世界標準は18歳であり、若者の政治離れの背景には各政党の政策が高齢者中心になる「シルバー・デモクラシー」があるとし、日本の将来を考えて、もっと若者に向けた政策に力を入れて投票してもらう必要性、また、民主主義の発展、若者の政治離れの解消といった大きな目的について、声を大にしてアピールしていきたいというものだった。
私は2007年に世代間格差の問題を指摘し、2008年に著書『18歳が政治を変える! ユース・デモクラシーとポリティカル・リテラシーの構築』の中で、こうした背景には「シルバー・デモクラシー」があると指摘した。同年、城繁幸氏や小黒一正氏とともに「ワカモノ・マニフェスト」を立ち上げ、世代間格差の是正と持続可能な社会システムへの転換を求め、『世代間格差ってなんだ 若者はなぜ損をするのか?』を発刊した。しかし「シルバー・デモクラシー」はもとより、「世代間格差」という言葉すら浸透するには至らなかった。
それが、ここへきて、国会答弁で選挙権年齢引き下げの理由として語られるまでに進化したのだ。

政治的中立性の見直しと、被選挙権年齢の引き下げ

また、この日の委員会答弁では、5月29日の参考人招致で私が発言した内容、つまり積極的な政治教育を行うための環境整備としての政治的中立性の認識の見直しと、さらなる若者参画促進のための被選挙権年齢の引き下げについても積極的な発言が続いた。
前述の船田議員は、政治的中立性について、「これまでの学校教育は、何も入れない、色に染めない、というスタンスをとってきたことで、近現代の歴史やいい意味での政治教育ができていなかった。『純粋培養=政治的中立』ではなく、高校生の政治活動を禁止した昭和44年通達についても、古くなったところが多々ある」と主張した。
また、「18歳、19歳の青年が選挙権を得て選挙運動ができる立場になるのだから、学校でやれること、外でできることなど、何ができて何ができないかを示す必要がある。今回の法案提出の母体となった与野党PTでそのことを示し、それを元にガイドラインや自主規制に使ってもらう」と発言した。
政治教育の中立性については、公明党の北側一雄衆議院議員も、「18歳が選挙権を得たという事は選挙運動の自由、政治活動の自由があるのが大原則である」とし、「一定の規制は必要ではあるが、それぞれ自主的に検討するのがよく、昭和44年通達については全面的に見直したほうがいい」とさらに踏み込んで答弁した。
民主党の武正公一衆議院議員も政治的中立について、「地位利用による強要が禁止されているだけであり、与野党によるPTでも1年後施行という中で立法府でも準備行い、文科省も主体的に見直しをしてもらいたい」と答弁した。
被選挙権年齢の引き下げについても、自民党の船田議員は、「これから考えなければいけない課題であり、諸外国の状況も踏まえ引き下げる方向で近い将来考えていく必要がある」と踏み込んで答弁した。
今回の「18歳選挙権」実現に向けた公職選挙法等改正に関する審議は、単に選挙権年齢を2歳引き下げるということにとどまらず、この国の将来を担う若者たちをどのようにして政治に参加させていくかという、非常に前向きな方向に国会審議を進化させたのではないかと思う。
これをきっかけに、政治が大きく動き出す事を期待したい。
参照) 衆議院インターネット審議中継 http://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php

成長戦略や地域活性の視点からも若者の政治参加促進が重要

参考までに、私の参考人質疑の意見陳述からいくつかを紹介しておく。
1つ目は、被選挙権年齢の引き下げについてだ。
以前、国家戦略特区として「若者の政治参加を通じた地域活性化に係る特区」を提案したことをこのコラムでも紹介した。成長戦略としてダイバーシティ(多様性)が必要だとして女性や若者の活躍推進が政策課題になっているが、経済だけでなく政治においても今後なお一層、若者の活用が求められる。
2014年1月、ジャーナリストの田原総一朗さんを会長に、政策監視NPOである「NPO法人万年野党」を立ち上げ、私が事務局長を務めたが、その前段で、田原総一朗さんや磯山友幸さんらと、国家戦略特区として、地方選挙における選挙権・被選挙権年齢を市町村が独自に設定できる「若者の政治参加を通じた地域活性化に係る特区」を提案した。
この提案は、国家戦略特区ワーキンググループによるヒアリングでも、とくに被選挙権年齢の引き下げについて高い評価を得たほか、大臣査定でもギリギリの所まで実現へとつめられていた。
参照)国家戦略特区「若者の政治参加を通じた地域活性化に係る特区提案」(2013年9月) 万年野党(政策監視会議)田原総一朗、磯山友幸、高橋亮平

被選挙権については、世界の約1/4の国で18歳から、半数以上の国で21歳から保障されている。選挙権年齢と被選挙権年齢との位置づけについては国によって異なる。
若者参画政策の先進国の一つであるスウェーデンでは、選挙権と被選挙権年齢は一致させるべきとの考えから1976年に同時に引き下げられたが、一方でシティズンシップ教育のモデル国の一つである英国では選挙権は1969年に、被選挙権は2006年に、それぞれ18歳まで引き下げられた。
参考にすべきはドイツ型である。ドイツでは被選挙権年齢を成人年齢と一致させるべきだとの考えから、1970年に選挙権を18歳に引き下げた際、被選挙権年齢を25歳から成人年齢(21歳)へと引き下げ、その後1974年に成人年齢が21歳から18歳へと引き下げられると、それと連動するかたちで被選挙権年齢も18歳へと引き下げられた。
今回、選挙権年齢が18歳へ引き下げられることで、これまで5歳だった選挙権と被選挙権の年齢差が、7歳へと拡大する。若年層の低投票率が指摘される中、同世代の候補者がいることは、若者の政治的関心につながると言われており、若者の政治参画促進の観点からも、被選挙権年齢の引きげも、現実的な課題として、改正に向けて取り組んでもらいたい。
憲法15条3項では「公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する」とされている。
このことから、一般には、投票権である選挙権は少なくとも成人年齢である20歳には保障しなければならないと理解されているが、同時に、この成年者に保障されている「普通選挙」を、投票権だけでなく立候補権である被選挙権まで含んでいると考え、被選挙権年齢を成人年齢まで引き下げる必要がある。

踏み込んだ政治教育を行うための中立性とは

2つ目は、具体的な政治教育プログラムと、そのための環境整備についてだ。
18歳選挙権の実現により、現役高校生の中にも有権者が出てくることにより、これまで以上に新たに有権者となる若者にどのように教育していくかは、今後の大きな課題となる。
こうした中、政治教育先進国であるドイツで、政治的中立性(超党派性)を保つために、政治教育を実施する上で守らなければならない原則として1976年に合意された「ボイテルスバッハ・コンセンサス」を紹介した。
「ボイテルスバッハ・コンセンサス」には、3つの基準がある。1つ目が「教員は生徒の期待される見解を持って圧倒し、生徒が自らの判断を獲得するのを妨げてはならない」、2つ目が「学問と政治の世界において論争があることは、授業の中でも論争があるものとして扱わなければならない」、3つ目が「生徒が自らの関心・利害に基づいて効果的に政治に参加できるよう、必要な能力の獲得が促されなければならない」というものだ。
ドイツには、この他にも、国の行政機関として連邦政治教育センターや、各州に州政治教育センターなどが整備されており、様々な自治問題に関するプログラムを作成・提供するとともに、中立性についても、全政党から22人もの国会議員が監査委員会を構成し、活動内容をモニタリングしている。
こうした取り組みの多くは、日本の政治教育インフラを考える際にも参考になるはずだ。
現状の日本において政治教育は、教育基本法14条で「良識ある公民として必要な政治的教養は、教育上尊重されなければならない」と位置付けられており、文部科学省はここでいう「政治的教養」を、a)民主政治、政党、憲法、地方自治等、民主政治上の各種制度についての知識、b)現実の政治の理解力及びこれに対する公正な批判力、c)民主国家の公民として必要な政治道徳、政治的信念、としている。
一方で、こうして掲げながら教育現場で実践できていない背景には、同2項「法律に定める学校は、特定の政党を支持し、又はこれに反対するための政治教育その他政治的活動をしてはならない」がある。
役所が政治との関係性について整理し、現場で判断することになると、どうしても禁止に走る傾向にある。ここで禁止されているのは、特定の政党の支持または反対するための政治活動だけである。
さらに時代錯誤も甚だしい例に、1969年に出された、高校生の政治活動を禁止する「文部省初等中等教育局長通達」などもある。
こうした政治的中立性の問題については、党派を超えて議会の側から明確に基準を示す必要がある。
参照)文部科学省HP
◇政治教育について
http://www.mext.go.jp/b_menu/kihon/about/004/a004_08.htm
◇高校生の政治活動を禁止する通達
http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/t19691031001/t19691031001.html

社会・政治参画を実践的に学ぶ場としての生徒会活動

「シティズンシップ教育」「政治教育」「主権者教育」といった教育環境の具体策を整えていくためには、これまでの知識偏重の政治教育や、模擬選挙などの体験だけでなく、生徒自らが当事者性を高めることができる機会が重要である。
ドイツやスウェーデンなど若者参画先進国では、学校運営についての決定を行う会議(学校協議会)を設置し、そのメンバーに生徒も加わっているほか、地域におけるまちづくりや若者の政治参加の啓発の取り組みなども行われている。
政治分野における「アクティブ・ラーニング」プログラムでもあり、社会参画の実践的な学習である生徒会活動を、主体的な政治教育(主権者教育)プログラムの柱の一つとしてあらためて捉え直すとともに、日本においても学校会議の設置についても整備する必要があると考える。
ドイツやスウェーデンなど若者参画先進国では、年齢や地域など特性に応じた様々な社会・政治参画の環境が整備されている。インターネットを活用した「e-Participation」といった事例も含め、こうした年齢や状況に応じたステップバイステップの様々な社会・政治参画を行う仕組みについても検討し、「民主主義の学校」とも言われる地方自治の現場、地域におけるまちづくりの現場で、モデルケースを作っていく必要性を強く感じている。

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繰り返しになるが、15年かけてようやく選挙権年齢の引き下げを実現へとこぎつけることができた。同時に、国会での議論、メディアの取り上げ方、当事者である若者の意識も変わってきた。
この「18歳選挙権」の実現を一つの大きなきっかけとして、日本を若者参画先進国にしていくための二の矢、三の矢を射っていきたいと思う。