不動産投資は不動産金融の機会に投資すること

不動産投資は、不動産を賃貸に出すことから生じる賃料収入に投資することである。賃料収入が目的だとすると、賃料が変化するから不動産価格も変化すると考えないわけにはいかない。


賃料が低下したら、不動産価格は下がる。賃料が低下する事態というのは、二通りある。一つは、経済環境の問題、即ち、不動産を取り巻く外部環境の影響で、賃料の相場が下落してしまうこと。もう一つは、稼働率が低下することである。

この二つ、稼働率が低下するから、賃料水準も低下する、というような関係で、強く相関している。商業用にしても、住宅用にしても、物件の供給が過剰になれば、空室が生じる。経済環境の悪化で需要が減退しても、空室が生じる。空室を埋めるためには、賃料を下げざるを得ない。そのようにして、物件の供給と需要の関係が賃料を規定するのは、一般の経済原則と同じである。

さて、相互規定にあるとはいえ、不動産投資の判断にとって、賃料と稼働率のどちらが、より重要なのか。おそらくは、稼動率であろう。賃料を下げてでも、100%近い稼働率を維持していれば、キャッシュフローを生み続けることはできるが、稼働率が一定限界を下回れば、賃料キャッシュフローは経費を下回り、投資価値を失ってしまう。極端な話し、完全に空室になったら、不動産投資としては意味をなさない。

全ての物件が同時に同じ率で稼働率を下げるということはなかろう。地域、立地、規模、築年数、用途など、一つ一つの建物毎に固有の性格があり、それに応じて稼働率も違ってくるだろうし、外装や共有部分の整備などの管理技術の差もあり、また、立地に適したテナント政策ということもある。更には、思い切った用途の転換や改装によっても、不動産の価値を高めることはできる。

そのような物件の選択と管理の技術、価値を高める経営の技術こそが、不動産投資が一つの事業として成立するための条件である。

技術だけでもない。東京のあちらこちらで進行中の巨大な開発案件を見ると、もはや、これは単なる開発ではなくて都市改造だな、と思わせる。普通は、立地条件は与件だが、都市改造のような大規模な開発をすると、立地条件自体が動いてしまう。価値を高めるという意味では、究極の戦略である。

問題は裏に動く巨額な資金の調達だ。巨大開発を行うためには、巨額な資金を投入する必要がある。そのような資金調達能力もまた、不動産事業には不可欠なのであり、そこに不動産金融の役割があり、不動産投資の機会がある。

不動産開発の立場からみたときの資金調達は、投資の立場からみたときには、不動産投資の機会である。不動産投資は、不動産に投資することではなくて、賃料に投資することであるが、更に一歩を進めれば、不動産投資は、不動産金融の機会に投資することになるのである。

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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