畜産の世界では、肉質の高い肉牛や牛乳をたくさん出す雌牛といった遺伝的な特質を受け継いだ牛などを体外受精卵を大量に生産することがすでに行われている。こうした一種の「クローン」増殖技術は、あらゆる分野で開発が進められているが、表題の記事で紹介されている熊本大学のリリースによれば、実験用マウスのメスから100個の卵子を得ることが可能になったらしい。
実験用のマウスは、STAP細胞騒動でも話題になったように遺伝的に均一ないわゆる近交系のものが使われることが多い。ある遺伝子の機能を働かなくさせたノックアウトマウスなど遺伝的に均一、つまり同じ遺伝子を持つクローンを使って比較実験が行われる。遺伝子がバラバラでは、実験結果の検証も不確かになるためだ。こうした近交系マウスの場合、一匹3000円前後。特殊な遺伝子のノックアウトマウスではその数倍の値段になることも珍しくない。
近交系マウスを大量に作り出すためには、従来ならメスのマウスから卵子を取りだし、それを体外受精させていたが、一匹のマウスから取り出すことのできる卵子の数は10個以下から多くても20個前後だ。熊本大学が開発した技術では、これが一気に100個になるため、卵子を取り出す際に犠牲になるメスマウスの数も減らすことができ、またコストを下げることも期待されている。
動物実験に対しては、動物愛護の精神から社会的にも厳しい視線が投げかけられている。もちろん、研究者の側も瞞然と実験動物を犠牲にしているわけではない。医学系研究機関や大規模な大学病院などへ行くと、必ず動物慰霊碑がある。我々は医薬の様々な場面で彼ら実験動物の恩恵を受けているが、それをまったくなくしてしまうことは現実的に不可能だろう。熊本大学の技術のようなものが、さらに多く開発されることが望まれる。
Science Daily
Successful ovulation of 100 eggs from one female mouse
Mars camera makes 60,000 orbits of Red Planet
PHYS.ORG
火星の軌道を周回中の探査機「オデッセイ(2001 Mars Odyssey)」には、THEMIS(Thermal Emission Imaging System)というカメラが搭載されている。このカメラは、5種類の視覚情報と9種類の赤外線(感熱)情報を撮影することができる。この探査機、2001年に打ち上げられ、2002年2月から観測を続けている。現在、火星の観測期間記録を更新中で、この記事によれば今年6月23日に火星を6万周回する。火星の表面の水や鉱物、放射線などの測定が目的だ。
火星の表面。玄武岩や風紋のようなものがわかる。Credit: NASA/JPL-Caltech/Arizona State University
Galapagos tortoise, aged 150, put down in California
BBC NEWS
南米沖、太平洋に浮かぶガラパゴス諸島では、ウルフ火山が噴火し、周辺の希少生物への影響が懸念されている。ガラパゴスには、ピンクイグアナやゾウガメなどが生息しているが、彼らの保護活動も活発化し始めている。この記事では、推定年齢150歳以上のガラパゴスゾウガメが米国カリフォルニア州にあるサンジエゴ動物園に関節炎などの治療を兼ねた休息の場を得ている、と書いている。このカメ、1933年にカリフォルニアへやってきたそうだ。
How Is the Blackhawks’ Name Any Less Offensive Than the Redskins’?
The Atlantic
北米のアイスホッケーリーグ(NHL)に、シカゴ・ブラックホークスというのがあるが、この記事ではチーム名の由来について紹介している。米国の歴史には、奴隷制による経済繁栄と先住民の民族浄化による土地の収奪という暗黒面があるが、ブラックホークは合衆国政府とその同盟部族に対して抵抗戦争をした酋長の名前だ。先住民の土地を奪い、彼らを追い出して植民する、という政策に対し、1832年に各部族が立ち上がって大規模な戦争が起きた。戦いは約3カ月続き、結局、ブラックホーク側が負けて抵抗部族は土地を追われた。のちに大統領となるエイブラハム・リンカーンも合衆国軍に従軍していた。ただ、ブラックホークは一部族の酋長に過ぎず、合議制が基本の先住民社会の中で合衆国政府からリーダーと名指しされ、この戦争の名前にもなったが、実際に彼が指揮官となっていたわけではない。米国人というのは、知ってか知らずか、ホッケーチームに彼らに抵抗したリーダーの名前をつけることをよくするが、この記事では、先住民の英雄と祖国の暗黒歴史も学んでホッケーを観戦してほしい、と書いている。
GM food is natural: ‘Foreign DNA’ in sweet potatoes suggests plants genetically modify themselves
DailyMail
生命進化の進化のルートはいろいろあるが、ウイルスなどの遺伝子が入り込んで新たな機能を獲得する「水平進化」は重要なキーだ。先日の新垣結衣がナビゲート役で出ていたNHKの特番では、ほ乳類がなぜ体内の胎児を「異物」として攻撃しないのか、という理由にウイルス由来の遺伝子組み換えの仮説を紹介していた。表題の記事では、サツマイモの遺伝子を調べてみたところ、世界各地の種にアグロバクテリウムという細菌のDNAが入り込んでいたことがわかった、と書いている。これがNCBIに掲載された論文「The genome of cultivated sweet potato contains Agrobacterium T-DNAs with expressed genes: An example of a naturally transgenic food crop.」だが、南米ペルーの研究者らが名を連ねていることが興味深い。人工的な遺伝子組み換えは、拙速に商品効果などを目的に導入されることが多いが、こうした自然界の遺伝子組み換えはトライアンドエラーで淘汰され、長い期間をかけて残されてきた。なぜ選択されたのか、そのメカニズムの原理がわかれば、人工的な遺伝子組み換えの危険性を軽減することができるかもしれない。
アゴラ編集部:石田 雅彦