やっぱり痛いオウンゴール --- 山城 良雄

この前の原稿で、自分から転ぶオウンゴールのたちの悪さを書いていたら。早速、外務省がやらかしてくれた。例の世界遺産登録で、「意に反する朝鮮人の労働」があったと認めたという一件。大部分の国民には寝耳に水や。

ことの経緯は、例によって韓国が遺産登録の前に、「強制労働があったと日本も認めている」という話をしたいと言い出したことや。そやけど、演説内容を事前に見せろと言ったのは日本側らしい。

ワシに言わせれば、ここが、つまずきの始まりや。事前に原稿など見ずに、連中が何を言おうが放っておけばよかったんや。一応事前に、登録に関しては相互に協力するということになっていたから、さすがに反対はできんはずや。もし、それでも反対してきたら、直近の2国間の約束を一方的に破る理由を問いただせば、答えようがない。審議が止まれば、批判は韓国に集まる。

さらにこじれて、遺産登録が延期が中止にでもなったりでもしたら、日韓関係はその日に終わる。これまでのように、「嫌韓は嫌韓・観光客にはおもてなし」てな甘い状況ではなくない。はっきり迷惑外人、北朝鮮と同等レベル、日韓首脳会談など最低10年は(というか、どっちかの国が本格的にこけるまで)開けない。ちょっと悲しい気もするが、個人的には、これが一番わかりやすい結末やったと思う。

そこまでやる度胸(というか権限)は、向こうも無いやろうから、おそらく、「日本側の状況改善を期待する」などとブチブチ言いながらも、それで話は終わりや。韓国側の外交官も親日と思われたら将来がないから、「嫌みをブチブチ」の実績がほしい。そこはわかってやったらええがな。

原稿を見た後でも、「この見解は受け入れられないが勝手にしろ」と、突き放しておけば、まだ2国間だけの問題で済んでたわけや。ところが「修正しろ(してください)」と言ったのが、立派なオウンゴール。相手の身にもなってみろ、ここで、あっさり修正したら、帰るなり人事上の極刑が待っている。家族もタダでは済まんお国柄や。

「こちらの発言なんだから介入しないでくれ」、という韓国側のこの段階での主張は、部分的には正論や。それを敢えて、「やめて」と言えば、協議・妥協という流れになる。あとは詳しく書く気にもならん。「意に反する労働」云々はともかく、地元の意に反する情報センターを約束する権限がなんであるのか、さっぱり分からん。外務省予算で作るわけでもないのに。

ここからはワシの憶測やが、日本の外交官(に限らず、官僚などのエリート)は、妙にプライドが高いくせに、度胸がないのが弱点や。自分の面前で何を言われようが、「そのお話は、世界遺産登録とは関係がないので、自分はコメントする立場にありません」と言って、鷹揚に聞き流すだけの器がない。おそらく、これを看過したら、自分の経歴に傷が付くとでも思ったんやろ。

逆に筋を通す気なら、「日本国政府が強制労働を認めた」というウソを、無条件で原稿から削除せん限り、お前にしゃべらす訳にはいかん。と、徹底的に頑張るべきやった。ところが、事を荒立ててヤバイとなると腰が引ける。

大きくクリアして相手にボールを回す余裕も、とことんかじりついて行く根性もないやつが中途半端にボールに触ってオウンゴールという構図や。韓国側から見たら、日本人が騒ぐので、普通に相手にしていたら向こうから妥協してきたように見えたやろ。

だいたい、強制労働や人権侵害の話と世界遺産には、何の関連があるんやろな。奴隷労働がいかんのなら、ピラミッドや万里の長城は余裕で失格や。300年以上前の大型建築物は、ほぼ例外なくアウト。例の百済の遺跡群とやらも、とても潔白とは言えんやろ。

そやから「登録には賛成するが、これを機会に、合法的な『意に反した連行』についても、賠償とは無関係に、きちんと情報開示してくれ。日本人にも徴用の被害者がいるのだから一緒に悲しもう」と、韓国が言うなら話は分かる。無理矢理働かされた人にとっては、それが「合法か違法か」、「国家賠償の対象か」などということは些末な問題で、とにかくたまったもんやないからな。

しかし、彼らがやっているのはそういう議論ではない。日本人の嫌がることなら、なんでもしてやるという、不気味でドス黒い了見や。無視するしかない。

「教えない、助けない、関わらない」という非韓三原則があるそうやが、ワシはこれに、「反論しない」を加えたい。生産的な議論ではなく、嫌がらせ目的で来る病的な相手に反論んしても何の成果も無いがな。また、必要以上に相手を傷つけることにもなる。隣家の酔っ払いに喧嘩を売られたのと同じや。「反論しない」のも「関わらない」に含まれることかも知れんが、うっかりすると踏み外してしまいがちやから、あえて別項を立てたいと思う。

もうひとつ。日韓・日朝・日中の問題で大事なのは、外部、特に欧米からの視点を意識することや。今回の話でも、70年以上前の東洋人同士の強制労働云々など、多くのユネスコ委員にとっては何の興味もないやろ。しかも、その議論をこれ以上なく醜悪で迷惑な形で展開する韓国には、みんな辟易してきている。慰安婦像なんかでも同じ状況になっている。

そこへさして、日本人が同じノリで反撃をはじめたら。「ややこしい国が、また一つ出てきましたな」という目で見られる。目くそ鼻くその世界。肩まで肥だめに浸かってウンコを投げつけてくるやつとの取っ組み合いに勝って何になる。

第三国から見て意味不明の喧嘩を汚い方法でやっていたら、いまだに残存する東洋人差別を助長するだけや。差別が悪いと言っても、意味不明の迷惑行為で嫌われるのは、嫌われる側にも責任がある。「他は知らんけど、少なくとも一応日本人はマトモでっせ」、というアピールだけは、ちゃんとしておくべきや。

今回の件でも、現地に行ってから走り回る韓国に対して「迷惑になるから対抗ロビーは控える」という判断は良かった。しかし、それならいっそのこと「強制労働を日本人が認めた」と言い出した段階ででも、「これ以上やると、他の申請国に迷惑をかけますので、今回は辞退します」と一端引いておいたら、遺産登録以上の国益があったようにも思う。

普通、こういうことをすると、日本は弱気であるとナメられるもんやが、この場合「あの国は特別ですから」と言えば、「確かにあの国は特別です。お隣さんは大変ですね」と言ってもらえる時期になっている。

それにしても「情報センター」。地元は頭が痛いやろう。先ず警備が大変や。セコい嫌韓テロの格好の標的になりかねんからや。嫌韓の聖地になったら、普通の観光客は寄りつかん。中韓からも、わざわざやって来るやつは、よほどの物好きや。

だいたい、具体的な資料がない場合、どうやって情報センターを作るのか、おそらく韓国は言うだけ言っても、地道な資料探しは全く協力してくれんやろ。結局汗を流すのは地元の教育関係者や。こういうのを、意に反する労働と言うのやろか。

いっそのこと、「こげな登録はいらんばい」と蹴飛ばす、オトコマエの地元があったら、むしろ観光客が世界中から集まると思うんやけどな。

今日はこれぐらいにしといたるわ。

梅雨に弱いサイエンティスト  山城 良雄