ウィ ーンの職業学校卒のオリバー・N(当時16)は昨年、イスラム教過激テロ組織「イスラム国」(IS)に入り、シリアでジハードに参戦したが、負傷して今年3月、ウィーンに帰国したところ、反テロ関連法違反で逮捕された。17歳となったNは15日、ウィーンの地裁で2年半の禁固刑を受けた。
▲「憲法保護報告書」の発表記者会見(2015年7月3日、内務省内で)=オーストリア内務省のHPから
同日は多数のメディア関係者が殺到するなど、シリア帰りのISメンバーの裁判には多くの関心が集まった。Nは「自分は戦闘には加わっていない。負傷兵の運搬を担当していただけだ」と弁明。シリア政府軍の戦闘機の爆撃を受け、負傷、生命が危なくなったので治療のため戻ってきたという。検察側の説明では、「NはISに参加したことをこれまで後悔していない」という。
検察側は、機関銃を構え、ジハードを呼びかけるNの姿が映ったビデオを流し、反テロ関連法違反で訴えた。2年半の禁固刑は17歳の未成年者への判決としては重いが、「判決はジハードに憧れ、ISに加わろうとする若者への警告の意味合いもある」(裁判側)という。
オーストリア内務省は3日、「2014年憲法保護報告書」を公表したが、公共安全局事務局長のコンラード・コグラー氏は、「オーストリアの安全にとって最大の脅威は宗教的動機に基づく過激主義とテロだ」と指摘し、「われわれが懸念しているのは若者たちだ。オーストリアから聖戦に参加するためシリアやイラクに行き、帰国する若者たちが増えている」という。
欧州で生まれ、成長したイスラム教徒が自身のイスラム教の教えを絶対視し、欧米民主主義の価値観を拒否、国際テログループの手足となったり、財政支援する過激なイスラム主義者(通称・ホームグロウン・テロリスト)が増えている。オーストリアも例外ではない。
同国では昨年、15歳と16歳の2人のイスラム教徒のギムナジウムの少女が突然、シリアに行き、反体制派活動に関わったという情報が流れ、ウィーンの学校関係者ばかりかオーストリア社会に大きなショックを投じたばかりだ。
最新「憲法保護報告書」によると、これまで判明しているだけで230人以上のイスラム教徒たちがオーストリアから過激派グループの聖戦に参戦し、70人以上がその後帰国した。39人が紛争地で亡くなった。これまで反テロ関連法に基づいて174件が刑法上の処分を受け、14人が判決を受けた。
治安当局は、イスラム系青年たちの過激化防止のため文部省、社会省と連携を深める一方、過激化問題の相談所を設置し、過激な道に行こうとする子供を抱える家族関係者の相談に応じてきた。
なお、同国は、①ISやアルカイダなど18テロ組織のシンボル(旗、ロゴ)禁止、②2重国籍を所有するIS参戦者はオーストリア国籍を剥奪、③両親の許可なくして未成年者の欧州連合(EU)域外旅行を禁止などの反テロ関連法を可決している。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2015年7月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。